人事労務コラム
会社において優れたリーダーとは?(2020年1月1日)

わが国の会社の経営環境は働き方改革をはじめ、あらゆる分野で急激に変化し続けています。こんな世の中で会社として生き残るため、今、会社においてリーダーの役割が特に重要になっています。強力なリーダーシップがあるかどうかが問われています。中でも最近の若い社員は七五三社員と呼ばれ、少しでも嫌なことがあると短期間で辞める人が増えているため、自分だけでなくチーム全体のモチベーションを盛り上げ、全体の社員レベルを向上させることができるリーダーが求められており、その存在は会社にとっても心強い存在となります。
1.会社にとって良いリーダーとは?
リーダーは会社の考えや目標を理解し、チームのメンバーに伝えなければなりません。社長が言ったことをそのままメンバーに伝言するのではなく、各人のレベルや興味に合わせてわかりやすく伝え理解してもらったうえで、目標を達成し、会社の発展に貢献できる人が会社にとって良いリーダーといえます。
目標をはっきりさせ、メンバーにもやりがいを出させる。
役割分担をはっきりさせ、個々の仕事を理解してもらう。
メンバーがレベルUPできるよう、指導・教育をする。
2.リーダーはチームを引っ張る!
リーダーは自分の仕事はきちんとこなして当たり前。そのうえでメンバーの手本となり、チームを引っ張っていく役割が追加されます。いくら立派な事を言っても、実行力がなければメンバーは引っ張れません。①大がかりな仕事 ②難度の高い仕事 ③前例のない仕事 など手間のかかる仕事を率先して取り組み見せることで、「自分もやらないと!」とメンバーに思わせることが大切です。
3.メンバーには達成感を!
目標を達成することで、メンバーは達成感を感じ仕事が楽しくなります。でも、メンバーが目標を目指し、努力しても「壁」は必ず出てきます。リーダーは、壁を乗り越えようと試行錯誤しているときに正しい方向に導く「きっかけ」をつくることが大切です。ただの「教える人」ではなく「コーチとしてサポートする人」になることにより、メンバーは達成感を得ることができます。
細かい部分まで手取り足取り説明するよりも、重要なポイントのみを教え、あとは自分で考えさせるようにすると、忘れにくく、応用が利くようになります。
4.リーダーに求めるものとは?
リーダーは自分の持つパワーの30%以上は会社の為に使わないといけません。
これまでの70%くらいのパワーで、いつもどおり自分の仕事をこなしつつ、さらに会社に対しても貢献していかないといけないものです。また、何事も自分だけでなく「チーム」で成果を上げることが期待されるようになるため、同僚やメンバーとも本気で関わっていくことが求められます。
単なる「隣の席の先輩」なら仕事のアドバイスも適当にやっておけばいいのですが、リーダーになればメンバーの育成は「やるべき」仕事となります。
外国人の雇用について~ 新在留資格「特定技能」が施行されます!(2019年4月1日)

本年4月から新しい在留資格「特定技能」制度が施行されます。政府は従来から「我が国にとって有益な外国人に限って日本国への受入れを行う」という方針を貫いていました。しかし今回従来の方針を事実上覆し、単純労働分野での外国人労働者の受入れ拡大に舵をとり始めました。この背景には少子高齢化に伴う深刻な労働力人口の減少があり多くの日本企業にとって今後は減少する日本人労働者を補うためにも外国人労働者の採用は避けられないと政府が判断したためです。
1.外国人の雇用について・・
我が国では外国人を雇用する場合に、必要な職務内容に合った在留資格を持っている外国人を採用する必要があります。在留資格は大きく分けて「働ける資格」と「働けない資格」に分けることができます。
①身分関係のビザの場合~
「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「永住者」「定住者」等これらの在留資格は仕事内容や時間の制限が全くないのでそのまま問題なく雇用できます。ただし「永住者」以外は期限があります。
②就労ビザを持っている場合~
「技術・人文知識・国際業務」「技能」等これらの在留資格の注意点は、本人が持っている在留資格や経歴と、会社で行う職務内容が合っているかということです。例えば「国際業務」のビザは会社で外国人本人の語学力を活用した翻訳や通訳等の仕事を行う必要があり、「技能」のビザは外国料理のコックさん等の技能的な仕事をしなければなりません。会社での仕事と在留資格が本当に合致しているかの確認は、本人から「就労資格証明書」を取っておく必要があります。
働く外国人で一番多い資格は、「技術・人文知識・国際業務」です。しかしこの場合でも自社での職務内容が「技術」なのか「人文知識」なのか「国際業務」なのか、どれに当たるのか明確にする必要があります。単なる営業等は前記の資格に該当せず、働いてもらうことができません。また「翻訳・通訳」等で在留資格を得ていながら実際は、接客等の単純作業についている場合も不正と判断され我が国に在留できなくなります。
③その他のビザを持っている場合~
「留学」「家族滞在」「文化活動」等これらの資格は、フルタイムでは働けません。本人が「資格外活動許可」を取っていればその時間内で、アルバイトやパートタイマーとして雇うことができます。(概ね週28時間程度)、また我が国の大学等を卒業した外国人を新卒採用する場合は、卒業する数か月前から就労可能な在留資格へ変更する必要があります。
2.新しい在留資格「特定技能」について・・
新しい在留資格「特定技能」が本年4月から始まります。これまで原則として従来は認められなかった単純労働分野にも外国人の就労を認める方向です。一般的には、既存のシステムである「技能実習生」として来日してから「技能実習1号」として1年間、「技能実習2号」として2年間そして一旦帰国後、再び来日して「技能実習3号」として2年間、合計5年間の研修を修了した外国人に対して「特定技能1号」への変更が認められることになっています。また海外から直接「特定技能1号」として入国する場合は、その在留資格で5年間滞在(家族帯同不可)のあと、試験への合格等を条件に「特定技能2号」(在留期間更新可、家族帯同可)への変更が認められ永住権への道も開かれていく予定です。技能実習修了者は無試験で1号に移行できるため、早ければ4月中にも資格取得者が生まれる可能性があります。一方4月に技能試験を行うのは制度開始時点で実習生からの移行者がいない介護、外食、宿泊の3業種。大半の業種は本年度中としており海外から新資格を目指すのは少し先になりそうです。
技能実習制度について・・・
技能実習制度は「我国の進んだ技術や知識等を開発途上国等へ移すことにより、その国の経済発展に役立つ「人作り」に協力する制度とされています。つまり開発途上国に日本の技術や知識を習得してもらい母国に帰ってから役立ててもらう趣旨の制度です。そのため従来は「技能実習は、労働力として考えてはならない」とされていました。技能実習を受け入れられる職種は下記の内容で具体的に細かく決まっています。
1.農業関係(2職種6作業)
2.漁業関係(2職種9作業)
3.建設関係(22職種33作業)
4.食品製造関係(9職種14作業)
5.繊維・衣服関係(13職種22作業)
6.機械・金属関係(15職種27作業)
7.その他(12職種24作業)
H29年には7.その他に「介護」が追加されました。
国会で「働き方改革関連法案」が可決・成立しました(2018年8月1日)

働き方改革関連法案とは「労働基準法」、「雇用対策法」、「労働時間等設定改善法」、「労働安全衛生法」、「じん肺法」、「パートタイム労働法」、「労働契約法」、「労働者派遣法」等8種類にわたる法案です。内容は①残業時間の上限規制 ②同一労働・同一賃金 ③「脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)の創設」の3つの政策の導入を柱とします。
①残業時間の上限規制
我が国の法律は、労働時間は原則「1日8時間・週40時間」です。しかし労使が協定(36協定)を結べば「月45時間・年360時間」まで残業が認められ、その上「特別条項」という例外を決めればいくらでも残業できるというのが現在の制度です。これを上限をはっきりし特別な場合でも、年720時間(一カ月平均60時間)までと原則を設定し、単月で100時間未満、2~6ヵ月の平均で80時間以下、月45時間を超えられるのは年6回までとしました。そのため繁忙期でも1カ月で100時間残業したり、2ヶ月連続で90時間残業したりする働き方は禁止です。違反すれば罰金や懲役が科せられるとのこと。ただし中小企業は一年遅れで2020年4月から適用されます。導入から5年間は運輸,建設,医師は適用の猶予、新製品の開発といった研究開発職は適用対象外となります。
36協定とは 残業や休日出勤についての労使協定・・
法律上は、この協定がないと残業等はしてはいけないことになっている。
この協定で結んだ時間のみ法律上有効となる。労働基準法36条で定められている。
②同一労働・同一賃金
正社員、契約社員、パートタイマー等雇用形態に関わらず、同じ業務や成果には、平等に賃金を支払うのが同一労働同一賃金です。従来から「能力給」を基本とするわが国の賃金制度を、欧州的な「職務給」への転換を図った考え方です。基本給は、勤続年数や能力・成果等が同じなら同額にするのが原則です。しかし、仕事がたとえ一緒であっても転勤や数年で仕事が変わるような総合職の正社員と短時間勤務や、転勤のないパートさん等の賃金の差は認められます。通勤手当等の各種手当や職務内容や成果とは関係なく支給している賞与などは、非正規社員にも支給しなければなりません。また企業には待遇差の内容や理由を非正規社員に説明する義務も設けられます。
長沢運輸訴訟とは・・運送会社に定年後再雇用された嘱託社員が、定年前と仕事が変わらないのに給与が下がったのは違法と訴えたもの。最高裁の判決では、定年退職後の再雇用などで待遇差が出ること自体は認めつつ、手当の一部を支給しないのは「不合理で違法」とした。
③「脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度」の創設
年収1075万円以上の金融ディラーやコンサルタントなどの一部専門職を、労働時間は関係なく成果で評価する仕組みです。そのため残業代や休日出勤手当などは支給されません。現在の法律は労働時間を1日8時間と決め、これを超えると残業代が発生するもの。あらかじめ決めた時間を働いたとみなす裁量労働制でもその分の残業手当や休日手当は支給されます。そのため脱時間給制度はさらに労働規制の緩和に踏み込んだ制度です。このため働きすぎの健康不安に配慮する104日以上の休日や本人の同意等が要件として付け加えられています。アメリカでは実施されている「ホワイトカラー・エグゼンプション」を参考にしたものです。
1075万円とは・・労働者の平均年収の3倍を相当上回る水準として設定された。
とすると・・労働者の平均年収は300万円前後(計算上の3分の1=358万円)
年収1千万以上は管理職を含めても労働者全体の約3%しかいない。
④年次有給休暇の改正
現在、年次有給休暇の取得は従業員からの申出が原則です。会社には取得させる義務はありません。しかし改正により、会社が本人の希望を踏まえ年5日は取得させる義務が発生することになります。ただし、会社が前もって日時を指定する計画有給については、これに含まれるため余分に取得させる必要はありません。本来年次有給休暇制度とは従業員が休んでも賃金が支払われる制度で、会社は6か月以上勤務する従業員に年10日から最大20日与えなければなりません。そのため人手不足などの理由で本人との合意のうえで会社が有給休暇を買い取っている場合は、会社が最低5日間は本人に実際に取得させる必要がでてきます。
⑤残業割増率の増加(60時間超 25%増⇒50%増へ)
以前の法律改正により、現在でも原則は月60時間を超える時間外労働について割増率が50%とされています。しかし中小企業については猶予期間があり猶予期間中のため60時間を超えても25%以上支払えば合法です。この猶予期間が2023年から廃止されるとのこと。今後は残業が月60時間を超えないよう生産性向上に向けた取組が求められます。
残業とその残業代の支払について(2018年4月1日)

近年、残業代のトラブルが多発しています。これまで、給料とは労働時間により支払うもので、労働時間に比例して賃金が増えるのは当然、と考えられてきました。しかし、この考え方は、人工知能による第4次産業革命が言われる中、特にホワイトカラーについては時代錯誤と言えます。テキパキと短時間で成果をあげる従業員より、理解が遅く仕事が遅い従業員の方が給与が多いのは、どう考えてもおかしいです。そのため会社は、法律をよく熟知したうえで会社の立場から、労務環境を整備する必要があります。
1.こんなやり方は要注意!
下記のようなやり方は、労働基準監督署や裁判において通常は否認されます。会社は従業員さんと話し合い、承諾を得た上で、就業規則や雇用契約書を見直すなど社内体制を整備し、今後の運用を改める必要があります。慌てて実施して手続き等を誤ると、不利益変更になる場合があるので注意が必要です。
①管理職に残業代を払っていない。
②残業時間を10分、15分と切り捨てて払っている。
③年棒制だから残業手当はない。
④勝手に残業しているから払っていない。
⑤歩合給だから残業代を払っていない。
2.労働時間とは?
労働基準法で、労働時間は1日8時間、1週40時間までと決められています(法定労働時間)。その時間を超えると残業となり割増賃金を支払うこととなっています。労働時間とはどのような時間のことをいうのでしょうか?判例によると『労働者が使用者(会社)の指揮命令下におかれて労働している時間』とされており、労働時間は『業務開始から終了までの時間から休憩時間を引いた実働時間』という考え方です。
3.労働時間の範囲とは?
それでは、会社にいる時間はすべて労働時間でしょうか?一般に、着替え時間や自由参加のミーティング等は労働時間とはならないとされています。ただし、就業規則等で義務付けられた作業着への着替えや、強制参加のミーティング、会社が黙認した自発的残業や、残業しないと明らかに業務が終わらないほどの業務量があった場合は労働時間とみなされますので要注意です。また、作業準備や後片付けの時間は通常労働時間となるほか、泊まり勤務中の『仮眠時間』も電話や呼び出しに応じる義務を課している場合は労働時間となることがあります。
4.いつからいつまでが労働時間?
会社には労働時間を管理する義務があります。厚生労働省の通達によると「使用者は、労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録」することとされ、原則として、①使用者が自ら現認し記録又は②タイムカードやICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録することとされています。やむをえず自己申告制によらざるをえない場合は、適正に自己申告を行わせるようにと定められています。残業する場合は残業申請書を併用するなど『実労働時間』をきっちり把握・管理することが適正管理のポイントであり、いつからいつまでが労働時間かを把握・管理することが大事になってきます。
5.運用するためのポイントは?
労働時間を適正に管理するためには、従業員、特に管理職社員への意識づけが大切です。次のようなルールを取決め、就業規則等に明記したうえで、運用させるようにします。
・タイムカードは、出社・退勤時刻ではなく、業務開始・終了時に打刻させる。
・業務が終われば速やかに退勤させる。終業後、用もなく職場に留まることを禁止する。
・勤務中の電話、メール、パソコンの私的利用を禁止する。
・どうしても残業する必要がある場合は残業申請書を提出のうえ許可制とする。
・部下は労働時間の長さではなく、実績で評価する。
・残業を黙認しない。黙認した管理職には人事考課でのマイナス評価や制裁も辞さない。
6.定額残業代とは
残業代トラブルに関して、企業側の対抗策として定額残業代の考え方があります。これは裁判所の判例として「労使間で時間外手当等を定額として支給することに合意したものであれば、本来の趣旨ではないが、直ちに無効とは言えず、通常の時間部分と時間外等の部分が明確に区分でき、通常の部分から計算した賃金との過不足額が計算できるのであれば、その部分を会社が払えば足りると解する余地がある。」とあるのを根拠とします。そのため、決まった判断基準のようなものは存在しません。同じような定額残業代であっても裁判ごとに判断は違います。裁判官の考え方やその時の状況に左右され判断されるのです。
7.定額残業代の設計ポイント
①定額残業代の金額の独立・・・定額残業代は基本給とは別個の独立した手当とし、その全額を残業代とするのが安全です。
②残業時間数の明示・・・最近は、定額残業代が何時間分か明示を求める裁判例が増加しています。従業員ごとの雇用契約書等でその残業代が何時間分なのか説明し、本人の同意を得ておけば安全です。
③超過分の差額精算の合意があるか、実際に精算しているか・・・定額残業代を超える残業がある場合は、残業代を追加支給することが必要です。規定にその表現があるかどうかよりも、実際の運用~実際に支給していたか~が求められます。
④本当の意味で残業代として支給しているか・・・役職や職務、経験等の「労働時間数」以外の要素で残業代の金額が変動するのは、本当に残業代なのか疑われます。しかし職種ごとの残業時間を実際に調査し、その結果に基づいて定額残業代を設定したということならば納得性は上がります。
⑤就業規則等への明記・・・「定額残業代」以外の「業務手当」「営業手当」等の呼称でも有効といえますが、就業規則や雇用契約書等で、それらが残業代である、との明記は必須です。できれば「定額残業代」の名称を使用し「設定残業時間数」を明確にします。また超過分の支給には「追加残業代」と給与明細にも掲載した方が安全です。
⑥労使協定(36協定)との関係・・・残業は36協定の範囲内で合法です。36協定の限度基準は通常月45時間とされています。そのため、この限度時間を超えるような金額の設定は無効とされ、設定時間が極端に多いと会社の安全配慮義務違反も問われることが考えられます。
8.従業員さんの納得のために
今後、労働時間をめぐる問題はますます増加すると思われます。一部の専門家が労働者をあおり残業代請求ビジネスも登場しています。会社としては、自社の労働時間を認識し、それを改善する方向性を明確にすることが大切です。労働時間を短縮すれば、介護離職や女性労働者の離職をはじめ多くの労働者の離職の防止や、より良い人材の獲得に繋がり、昨今の人材不足も解消されるかもしれません。
〇裁量労働制とは・・実際の労働時間ではなく、あらかじめ決められた時間働いたとみなして給料をはらう制度。政府は「営業職の一部」の対象の拡大を目指していたが、野党の追及にあい撤回した。デザイナーや弁護士等の「専門業務型」と本社等での「企画業務型」があり対象業務が限られている。
残業を減らし効果的に仕事をするための工夫として、下記のような特例的な制度が認められています。
●特例措置対象事業:1店舗10人未満の販売業、飲食業、医療福祉業等の場合は週44時間までOK。
●変形労働時間制(1年、1ヶ月):時期により業務の繁閑のある会社で、週を平均して40時間以内になれば、特定の日や週に8時間、40時間を超えても残業とならない。
●みなし労働時間制:①営業等の外勤業務の場合で労働時間が特定できない場合や(事業場外のみなし労働制)。②本人に仕事の進め方を任せた方が良い業務(研究開発、企画立案など)については、「あらかじめ定めた時間労働した」ものとみなす。
就業規則や労使協定の作成が必要ですので、当事務所までご相談ください。
同一労働同一賃金と今後の会社の対応について(2018年1月1日)

1.同一労働同一賃金とは・・
同一労働同一賃金とは、同じ仕事内容であれば、同じ賃金にしなさいということです。正社員やパート等の雇用形態にかかわらず、同じ成果や能力なら基本給や賞与、通勤手当、有給休暇などの待遇を同じにするという考え方です。欧米では従来から当然の考え方で、職種ごとの給与相場や給与制度が定着しています。これは政府が昨年にまとめた実行計画に沿った内容で、本年開かれる通常国会に法律改正案を提出し、早ければ2019年4月の施行を目指しています。もともとこの考え方は、我が国ではパート労働法等で①職務内容が正社員と同一②人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一であれば、正社員と差別的取り扱いが禁止されることになっていたものを強化するものです。
2.同一労働同一賃金の背景・・
バブル崩壊後のデフレ経済下において、企業は将来の不安から人件費の抑制に20年以上取り組んできました。その結果、正社員の給料は頭打ちになり、他方パート・アルバイト・派遣社員などの非正規雇用は総労働人口の4割にも増大しました。そして現在、正規雇用と非正規雇用との賃金格差が問題になってきています。欧米では非正規社員の賃金は正社員の8割程度、しかし日本の非正規社員の賃金は正社員の6割程度とかなり低いのが現状です。もともと人件費を抑えるため安価な労働力として非正規社員が増えているのですから、当然日本の全体の賃金水準は頭打ちになります。そうなると物が売れなくなり、その結果、物価はより下がり、また人件費を下げなければという悪循環に陥るわけです。また企業活動の国際化も相まって、政府はこれらの打開策として同一労働同一賃金を打ち出してきています。
3.同一労働同一賃金と人事制度・・・
同一労働同一賃金の考え方は、人事制度的に言えば「職務給」です。一方、我が国の人事制度は従来から「職能資格制度」です。これは我が国独特の制度で、言葉通り社員の「職務遂行能力」を評価して給与を決定します。「どんな仕事か」というより、「どんな能力の持ち主が仕事をしているか」によって給与が決まります。我が国では同一労働同一賃金ではありません。そのため「職務給」を導入しにくいという問題があります。職務給で大事なのは、職務をきちんと、正確に評価するという事です。職種や職務を区分し、それぞれの責任や難易度を判定し、給与額を決めていく。欧米では転職によるキャリアアップも活発なため、会社は同業種や同地域の他社の給与を我が国以上に気にかけます。ただしパートタイマーについては、我が国においても従来から給与を事務職、製造職、販売職など「職種別」に決めている場合は多いと言えます。
4.同一労働同一賃金における今後の給与等の考え方・・・
前記の考え方に立った国のガイドライン案において以下の具体的な考え方が示されています。
①基本給について・・・支給基準を「職業経験や能力」「業績・成果」「勤続年数」に区分し、それぞれに関して「正社員と同一であれば同一の支給をすべき」とし、「一定の違いがある場合はその違いに応じた支給をすべき」としています。
②各種手当について・・基本給と同じく「会社への貢献が全く同じであれば同じ金額を支給せよ(均等待遇)」「貢献が違うのであればその違いに応じた支給をせよ(均衡待遇)」という表現で、役職手当や賞与も「職務と貢献が同じであれば同じにしなさい」という考え方です。その他、危険度や作業環境に応じて支給される特殊作業手当、交代制勤務などの特殊勤務手当、精皆勤手当、時間外等の割増率、通勤手当、出張旅費、食事手当、単身赴任手当、地域手当などは同一の支給をしなければならないとしています。
③定年後の再雇用について・・定年後一旦退職してもらって嘱託や契約社員として再契約する場合については「その賃金差については、実際に両者の間に業務内容、職務・配置の変更範囲、その他の事情の違いがある場合は、その違いに応じた賃金差は許容される」としています。ただし、どこまで賃金を下げることができるかなどの具体的な事項は今後の検討課題としています。この件について各種の裁判例もあり、判決結果も様々です。
5.今後の評価・賃金制度とは・・・従来会社は正社員と非正規社員を別々に管理してきました。非正規社員は「有期契約・低賃金」を前提とした一種の雇用の調整弁と考え、社会もある程度それを許容してきました。しかし本年からは5年無期転換制度も進んできます。そのため今後は、正社員と非正規社員との間のバランスを考慮し、社員に説明可能な賃金・評価制度に変えていくことが求められます。
①正社員・非正規社員ともにその仕組みを統一的にわかるようにし、正社員と非正規社員との仕事の違いや賃金の違いを合理的にわかるようにする。社員のモチベーションを高めるためには自らの処遇がどう行われているのか自ら納得することが大事です。
②正社員・非正規社員を合わせた人件費総額をコントロールできる賃金制度にすること。無期契約社員が今後増加することもあり、有期契約社員が持つ雇用の弾力性、調整弁という機能が低下します。そうなると、企業は人件費のうち変動費化する調整弁を持つ必要があります。そのためには賞与の位置づけが重要です。今後は正社員も含めて、会社の収益や個人の業績等により賞与を変動費化する仕組みを確立する必要があります。
③採用競争力、定着力のある魅力的な人事・賃金・人材育成の制度を作る。人口減少社会のもとで構造的な人手不足が顕在化します。今後は人材の獲得・定着が会社の競争力を左右する時代です。若手人材や優秀な人材をひきつけることのできる「処遇の見える化」が大変重要です。
(参考書籍:同一労働同一賃金速報ガイド(労働調査会)
〇各種労務規定の作成や人事制度、評価制度についてのご相談は当事務所まで。
人材定着のため会社がすべきキャリア形成(人材育成)とは(2017年10月15日)

1.キャリアとは・・・
最近、人事労務の世界で「キャリア」いう言葉がよく使われます。一般にキャリアとは、仕事・経歴・就職・出世などのイメージで使われています。しかしキャリアとは本来、そのような意味でなく、働くことに関わる「継続的なプロセス(過程)」と働くことにまつわる「生き方」そのものを指すと言われます。つまりキャリアを積むということは、この仕事の経験を積むという事だけでなく、その仕事に取り組む中で身につけていく技術・知識・経験に加えて、人間性を磨いていくこと、そしてプライベートを含めた自分自身の生き方を磨いていくことです。
仕事をする中で、どんな経験が積めるか、どんな力がつくか考えること。そして一度入社をしたら力が付くまで転職をしないこと。同時に今だけでなく先を見据えて年令に応じた力をつけていくこと。技術や知識面だけでなく、仕事をする中で失敗や努力を通じて「正しい判断力」や「周りとの調整力」などの人間性を磨いていくこと。時代のトレンドを読み今の仕事が10年後の市場で拡大しているのか、縮小しているのか、今の景況感は良いのか悪いのかなどの経済の流れを読むこと。それらが総合的に「キャリア」という概念で包括できると言えます。
2.従来の人材(キャリア)に対する考え方・・・
我が国の終身雇用・年功序列制はもう崩壊寸前です。今までひとつの会社の社内事情だけに詳しいゼネラリストを養成する日本的雇用慣行はすでに時代遅れです。採用についても今では、新卒者の一括・定期採用から専門能力を持った必要な人材を必要な時に必要なだけ採用するという戦略の必要性が言われ、中途採用を含めた通年採用に比重が移ってきたと言えます。加えてパート・アルバイト・派遣社員など多様な人材の採用が当たり前になり、バブル期並みの人手不足の昨今では採用の方法が変化するのは当然のことです。また退職についても成果主義やコンピテンシーに基づいた評価制度の導入により定年を待たずに会社を去る人が増えています。
またこの他にも国際化・情報化の進展により仕事が複雑化・高度化し求められる能力やスキルが変化しています。また変化のスピードも想像以上に早く、従業員自身どのような能力を勉強しどのようなスキルを身に着けていくのかが非常に難しくなっています。
3.新しい人材(キャリア)に対する考え方・・・
これまでのいわゆる「キャリア」とは社内で、どのような部署を経て昇進していくかといった「社内履歴」のことでした。しかしこのようなキャリア形成の在り方はもはや通用しなくなりそうです。従業員さんの価値観の変化もあり自らのライフスタイルに合わない異動や配置は受け入れられにくくなっています。さらに自社のことしか知らないようなゼネラリストでは労働市場の価値は低くなります。多くの企業が望んでいるのは「自ら主体的に行動し、それによって新しい価値を生み出せる人材だからです。そのような自立した人材(キャリア自立)を企業は望むようになります。
上司の指示やそれまでの慣習・前例にとらわれず独自の発想ができる人材。その場の状況に応じて最も相応しい行動がとれる人材。決められたやり方をうまく運営することより、新たな価値を創造できる人材。そういう人材こそが自立した人材(キャリア自立)と言えると思います。
4.会社からの「キャリア自立」への支援とは・・・
従来の従業員と会社の関係は「面倒を見てもらう代わりに、言う事をきく」という「依存・従属」の関係でした。この関係を改めなければ個人の自立は困難です。「依存」から「自立」へと変化させるためには「従属」も「対等」へと変わる必要があります。そのためには以下の方法が考えられます。
①人事制度を構築し、その仕組み・結果をオープンにする。
人事・賃金制度を構築し評価結果などを従業員に対して公開する。その結果、従業員と会社の双方が「ルール」を理解しているという、フェアな関係を構築できます。
②キャリア選択の自由を与える。
これまでのような会社都合の人事配置・異動でなく、自己申告制度や社内公募、社内FA制度などで従業員が自ら選べる仕組みをつくる。従業員が必要と感じた専門能力を勉強する機会や方法について選べるようにします。
③キャリア相談(キャリア・コンサルティング)」の機会を設ける。
デフレ経済の中、労働環境が激変する現在、従業員が自ら自分自身の将来をイメージするのは困難です。かつての高度成長の中では従業員は自分自身の将来をイメージできました。何を学び何を経験すればいいのか理解できました。しかし今では従業員は自ら会社生活におけるキャリアを自分で見つけなければなりません。そのために本人がキャリアイメージを描けるように会社がサポートするわけです。
5.従業員のキャリア自立の効果とは・・・
それでは従業員がキャリア自立することでどのような効果が期待できるでしょうか?
①優秀な人材の「引留め策」になる・・・仕事を、ヤリ甲斐を持ってするため離職率が低下する。
②求人活動時に優秀な人材が多く集まる・・・上記の内容を公開することでいい会社だとアピールできる。
③組織が活性化し、生産性が向上する・・・自立した優秀な人材が活躍することで、自立できない人材が去っていき会社にとって望ましい「新陳代謝」が図れ生産性も高まる。
6.最後に・・・
前記のことから今後、従業員のキャリア自立への対応ができていない会社については「人材流失のリスク」が増加します。従業員が自らのキャリアを考えた場合にそれらを実現するものが社内にない場合、優秀な人材から会社をやめる可能性も考えられます。個人が自立を求められると同時に、会社もまた個人の自立に耐えられるシステムや企業風土を持つ必要があります。(人事・賃金制度構築やキャリアコンサルティング等のご相談は当事務所まで)
職場で問題を起こさないための上司の責任と権限(2017年7月25日)

~職場で問題を起こさないための上司の責任と権限~
会社において部下を持つ人=上司は、会社の経営権とともに労務管理権限もあるため使用者としての責任が要求されます。会社の社長はもちろん課長、部長、支店長、工場長などはこの立場から部下を指揮監督して仕事をおこなっています。ただこのような人々が、意外に自分の法律上の地位や権限、義務について無知なことが多くそのためにトラブルになったりすることがよくあります。もともと「労働基準法」は憲法の生存権の考え方に基づいており労働者保護の立場から作られています。そのため普段は会社経営において「労働者の権利」が強調されがちです。上司としては労働者に対してつい及び腰になりがちですが、権利と義務は常に表裏一体です。「労働者の義務」も当然求められます。
日常の労務管理の中で、上司自身が違法な命令をしたり、労働者の違反行為を放置したりして問題を起こさないためにも以下の知識は重要です。
1.会社の組織と職務分担・・・
会社に入社することは従業員が会社と労働契約を結ぶことです。労働契約とは労働者が会社に使用され、会社がこれに対して賃金を支払うことについて両者が合意することです。ただ会社は法人のため手足もなく口もきけないため、法人の行為は代表取締役(社長)が行います。しかし社長が会社の全ての行為を行うことはできません。そこで会社は組織を設け部長、課長、係長といった職制により権限を分担して行います。課長等の権限は社長から委任されたものであるため、課長としては「自分の言うことは社長のいうことだ」という考え方になります。
2.上司の部下に対する権限・・・上司には各種の権限があります。
①部下に対する教育指導権限・・我が国は一般的に新卒等「未教育」の者を採用して企業内で仕事を通じて育成していくという(OJT)考え方です。特に試用期間中は会社に合った仕事ができるように指導教育し、一人前にする期間です。仮に本採用せず解雇する場合にも「よく教えましたが、とても駄目です!」ということでないと正当性は成立しにくいと言われます。
②部下に対する業務命令権限・・業務命令とは会社の業務を遂行するための上司が部下に対する指示や命令のことです。部下は上司の命令に誠実に従う義務があります。たとえ自分とは意見が違い気に入らなくても原則として、上司の指揮命令には従わなければなりません。会社外の行為についても会社の評判を下げるおそれがある場合には、仕事に関係ない場合でも規制できることがあります。この権限を保障するために③部下に対する懲戒処分権限も認められています。
④職場秩序維持権限・・会社は従業員のチームワークで成り立っています。従業員の勝手な行動により、こ
れらが乱れると会社の運営はたちまち危機に陥ってしまいます。懲戒処分等で企業秩序を回復、保持することは上司の権限であり責任です。
⑤人事権と勤務変更権限・・我が国の労働契約は特別の約束がない限り、従業員は自分の労働力を「会社に委ねた」とされ、会社はこの権限により労働者に労働者の仕事内容、働き方、働く場所等を個別に判断したり変更を命じたりできると考えられています。したがって会社の転勤や配転命令等には原則として従わなければなりません。またそれら以外でも会社が必要に応じて新しい勤務形態や労働時間を設定することは、包括的に委ねられた権限の範囲なので労働者は従う義務があります。
⑥安全衛生管理権限・・災害事故や過労死の防止
上司はただ仕事を命令し遂行すれば良いだけではありません。部下がその業務を「安全」かつ「健康(衛生的)」に遂行するように配慮し、仕事による事故や病気を起こさないように注意しなければなりません。そのため上司は部下に対して安全管理や健康管理権限を有しています。
⑦ 部下に対する注意監督権限・・不行使は職務怠慢
一定の地位にある上司には、部下が義務を的確に実行するよう指導監督する権限や責任があります。
部下の違反等を知りながら放置していた場合には黙認したことになり、そのことによるトラブルについては責任を問われることもあります。労働者の解雇が有効とされた場合でも「上司が再三、注意していたが・・」ということであれば認められる場合が多いと言えます。
その他にも上司の権限としては、⑧施設管理権限、⑨信用保持権限、⑩誠実職務遂行権限、⑪業務促進権限、⑫企業秘密漏えい防止権限、⑬就業規則違反行為の調査権限等があります。
3.権利行使上の義務と配慮・・・権利と義務は表裏、権限には当然義務が付いてきます。
今日の働き方改革のきっかけにもなったように、世の中ではいわゆる過労死や過労自殺等の原因となる長時間労働が注目されています。そのため部下の心身の健康管理や時間外労働等の管理が重要になっています。上司は時間外労働を命令する権利がありますが、当然部下の健康やメンタルヘルスへの配慮も必要です。職場環境を適正良好に保持する義務もあり、人間関係上の配慮やプライバシーの保護、セクハラやパワハラ防止への配慮が求められます。
(参考図書「部下を持つ人のための人事・労務の法律」安西 愈)
「働き方改革」の9つのテーマとは (2017年4月1日)

~「働き方改革」の9つのテーマとは~
働き方改革とは、安倍政権が掲げる政府の成長戦略です。政府は人口や労働力人口が今後継続して減少していく中で、長時間労働・残業などの慣習が日本経済の足を引っ張り生産性低下の原因となっていると考えています。従来の我が国の雇用保障や年功賃金は法律で定められたものではなく、過去の高度成長期に定着した雇用慣行でしかありません。「ジャパンアズナンバーワン」として世界から注目された成功体験がバブル崩壊後の働き方改革を阻んでいると言われています。
1.働き方改革の3つの原因
①人口および労働力人口の減少
我国の人口は、高齢化・少子化により毎年減少しています。特に15~64才までの労働力人口は近年では減少幅が大きくなり、毎年80万人以上減少してきています。
このような中、今後企業は労働力を確保するために、従来の男性正社員中心だけでなく女性や高齢者、外国人など多様な人材に目を向ける必要が生じています。しかし我が国の既存の親方日の丸的な働き方は、急な配置転換や転勤、残業、終業後の付き合い等を伴い、彼らには不向きです。そこで今後は社員一人一人に合わせた多様な働き方が要求されるわけです。
②長時間労働の慣習の改善
将来の労働力の供給不足に備え、我が国が他の諸国と競争していくためには、他国に対して低いと言われいる「一人当たりの生産性」の向上によって、稼ぐ力を高める必要があります。その際重要なことが長時間労働の是正だと言われています。長時間労働の是正を通じて女性等が活躍しやすい職場作りに取り組むことで労働の質・量の両面を底上げする目的があります。
③多様性(ダイバーシティー)マネジメントの推進
多様性(ダイバーシティ)マネジメントとは、個人の性別や人種、国籍などの違いにこだわらず優秀で能力の高い人材を活用する企業経営のことです。近年は経済のグローバル化が進むことで、様々な環境に対応できる多様な人材の必要性が高まっています。不要な残業や休日勤務など労働生産性を落としている要素を取り除くことで優秀な人材を囲い込み、労働生産性を上げていく必要があると言われています。
2.働き方改革の方向性
①同一労働同一賃金の法制化
わが国では会社で雇用が保障される正社員と、その正社員の雇用を守るための調整弁としての非正規社員の間には大きな待遇格差があります。すでに現状では、雇用形態に関係なく同じ仕事や成果には、平等に給与等により報いなければならなくなっています。今後も是正すべき待遇差を政府は指針で明らかにし、法改正で説明責任などを課す方針です。もっと進んで、賞与や各種手当なども正社員と差別するのはおかしいとの考え方もあります。
②60才定年制の見直し
毎年大幅に現役世代が減少しているわが国にとって、シニアの活躍は大切です。シニアの豊富な経験を他の企業で活かしたり、高齢者の創業を応援したりすること。または起業時に人を雇う際や継続雇用や定年の延長を進める企業への助成金での支援も国は進めています。
③労働時間の直接規制
労働時間への規制も変わろうとしています。労使協定により残業を実質的に無制限に伸ばせる制度を改め、今後は罰則付きの上限規制が設けられます。繫忙月に例外として認められる残業は100時間未満となりそうです。また欧米では導入済みの終業から始業までに一定の休息を設ける「勤務間インターバル制度」も導入されようとしています。
3.今後の労働について
働き方改革は、表面的には労働者に優しく見えます。しかし真実は、労働時間の短縮や休日の増加などで働かなくても給料が貰えるといった甘い内容ではありません。人口減や国際化で競争が激しくなる一方で、働き手の持つ力を存分に引き出せないと競争に負けてしまいます。そのため会社として大事なことは、一人一人が効率的に働き、短い時間で仕事が終わるようにする環境づくりです。また企画力や創造性で勝負するホワイトカラーの場合は、本人の工夫によって生産性をあげ、働く時間を短縮させる制度を充実させる必要があります。
そのためむしろ今後は、労働の質はよりハードになります。また従来からの日本的経営は弱まり雇用の安定性は低くなると思われます。労働者も働く覚悟を持つ必要があります。自らの腕を磨きプロの働き手として頑張らなければなりません。問われるのは成果を生み出せる専門的な能力です。
1)同一労働同一賃金等非正規労働者の待遇改善
2)賃上げと労働生産性の向上
3)長時間労働の是正
4)転職・再就職支援(格差を固定化させない教育)
5)テレワーク、兼業・副業など柔軟な働き方
6)働き方に応じた社会保障制度,税制~女性・若者
7)高齢者の就業促進
8)子育て・介護と仕事の両立、病気の治療
9)外国人の受け入れ
~ビジネスで大切な「コミュニケーション能力」について~(2017年01月01日)

ビジネスで大切な「コミュニケーション能力」について・・
日頃、会社において「最近、部下の考えていることがわからない」、こんな思いを抱いたことはありませんか? 「近頃の若者はコミュニケーション能力がない」「新人が会議で意見を言わない」等々。確かに質問を投げかけてもなかなか会話のキャッチボールが成立せず、一方通行で終わることが多いといったエピソードはよく耳にします。近年情報が氾濫し社会がどんどん複雑化しているビジネスの世界では、「ロジカルシンキング(論理的思考力)」と共にこの「コミュニケーション能力」が、仕事に成果を出し、成長していくための必須の能力とされています。
〇ビジネスで必要なコミュニケーション能力とは
もともとコミュニケーション能力とは「受け取ったり」「伝えたり」する能力です。それらはさらに、相手の言いたいことを素早くキャッチする「ヒアリング能力」、相手を説得したり納得させたりする「交渉力」、相手を理解し適切な対応をとる「マネジメント力」等に分けられます。「傾聴」という言葉は、ただ相手の言葉を丁寧に聞くだけでなく「その表情」「立場」「状況」「性格」等から相手の意図を正確かつ総合的に感じ取る技術を表した言葉と言えます。
しかし今日、顧客や会社の上司との会話で求められるコミュニケーション能力とは「相手に負担をかけない伝え方」という意味で使われる場合が大きいと言われています。
〇コミュニケーション能力(ステップ①)・・・「相手をイラつかせない」
コミュニケーション能力の低い人間とのやり取りは非常にイラつきます。一般的に言われるコミュニケーション能力とはこの相手をイラつかせない技術です。原因は、本人に相手が何を求めているかという観点が抜けていることです。あくまで自分本位で自分が言いたいことばかり話そうとします。また相手がそれを望んでいる場合を別にして「正直に正確に細かく伝えればよい」というのも間違いです。業務において顧客や上司は通常「ざっくりとした結論」「落し所」「大体の感触」を求めている場合が多いものです。
例えばこんなことに要注意!! ・話しかけるタイミングが悪い
・聞き取れない(声が小さい、早口)
・質問の意図に対して答えない(何が知りたいか理解できない)
・話が長い(省略ができない)
・話が極端に短い(情報不足)・自分が言いたいことだけ話す
・「いちおう」「とりあえず」「個人的には」等のノイズが多い
〇コミュニケーション能力(ステップ②)・・・「話さなくてもわかるヤツになる」
ステップ①は、新入社員向けのレベルです。もう少し上のレベルは「話し合うことを必要としない」という段階があります。本来コミュニケーションとはお互いのギャップを埋めるためのものです。最初から相手に十分な情報が届いていれば、そこにコミュニケーションは必要ありません。つまり「顧客や上司から今どうなっているか?」を問われた時点でコミュニケーション不足は明らかです。相手を観察し、察知し、相手が問いかけを行う前に必要な情報を過不足なく与えておくこと。これが会社の求めるステップ②のコミュニケーション能力と言えます。
コミュニケーション能力が低い人間ほど、相手にこちらの意図が伝わっているはずだと主張します。しかし、
これは多くの場合、「話した」「メールした」「議事録にある」といった自分の最低限の義務を果たしたという言い訳でしかありません。相手が正しく受け取って初めてコミュニケーションが成立するのです。やり手の営業マンは、顧客との間で寡黙な人が多いとのこと。それは顧客が必要としている十分な情報を既に手に入れているからといいます。
★レバイン(アメリカの心理学者)の コミュニケーションスキル★
コミュニケーションの基本となる人間のソーシャルスキルとして以下の考え方があります。
これらもビジネスコミュニケーションを考える上で参考になります。
1)挨拶 社会的な場の雰囲気を読み、ふさわしい行動をとる。
2)強化行動 相手の気持ちを察して、相手をよい気持ちにさせる。
3)相互的行動 友達に親愛の気持ちを行為で表す。
4)協力行動 遊びや仕事で協力する。
5)非言語的キュー 視線や身振りで気持ちを伝える。
6)歩調を合わせる
他人と歩調を合わせ、せかしたり無理強いをしない。
7)社会的フィードバックへの感受性
社会的な相互作用の後、どのようにふるまうか知っている。
8)他人の行動への理解 相手の行動の意味や意図を理解できる。
9)自分の影響力の認知
自分が他人からどのように思われているか、また自分の存在が
どのような影響を与えるか知っている。
10)他人との争いの解決
攻撃的にならずに、他人との争いごとを解決できる。
11)場の支配
その場を強く仕切らずに、仲間と関係を持つこができる。
12)社会的回復力
人間関係で失敗しても、回復することができる。
13)自分の売り込み能力
仲間に受入れられるよう自分のイメージを作り上げることができる。
1)自分の気持ちを伝える能力
自分の気持ちを誤解されずに正しく伝えることができる。
2)他人の感情を読む能力
他人の気持ちを、他人の言葉から読み取ることができる。
3)仲間言葉の理解
仲間同士の特別な言葉遣いをうまく行うことができる。
4)話題の選択と持続
いつ、どのような話題を、どのくらい続ければよいかを知っている。
5)ユーモアの使用
適切なユーモアを会話にこめることができる。
6)話の切り替え
聞き手の種類によって話し方の切替えができる。
7)他人の期待の感知
相手が何を知り、何を期待しているのかを知っている。
8)上手な依頼 相手を傷つけないように依頼ができる。
9)誤解の解消 言葉による誤解を解くことができる。
10)感情調和
相手の気分をよくするような話し方をすることができる。
この秋、政府が掲げる「働き方改革」と助成金に注目!! (2016年10月15日)

我が国の来年度に向けての厚生労働省の概算要求が発表され、政府が「最大のチャレンジ」と 位置付ける「働き方改革」と「生産性向上」対策が明らかになりました。
大きな柱としては、①同一労働同一賃金の実現による非正規雇用の待遇改善と最低賃金の引上げ ②長時間労働の是正 ③高齢者・障害者等の活躍推進 ④労働生産性向上に向けた労働環境の整備という4つの内容です。
これらについて具体的な対策が予算計上されています。今後、中小企業が会社の人事労務方針を考えるうえで重要な内容となっています。また、これらの助成金を十分理解することなしで大損をしないようにしなければなりません。
~働き方改革の4つのテーマ~
1.同一労働同一賃金の実現に向けた非正規雇用の待遇改善
(約570億円の概算要求)
政府は、現在我が国の労働力人口の3割以上を占めるパートタイマー、契約社員、派遣社員等の非正規労働者の待遇の改善を目指しています。そのための施策が、最低賃金の大幅な引き上げと キャリアアップ助成金の拡充です。
○キャリアアップ助成金の拡充 ・・・「期間の定めのある」契約社員、パートタイマー、派遣 社員さん等の非正規の従業員さんを、「期間の定めのない」正社員にしたり、能力向上のために教育訓練をしたり、人事制度の整備等を行った場合に助成金がもらえます。
a.正社員化コース(一人当たり)
Ⅰ.有期労働者 → 正社員 60万円 (東京地区+50万円)
Ⅱ.有期労働者 → 無期労働者 30万円 (東京地区+20万円)
Ⅲ.無期労働者 → 正社員 30万円 (東京地区+30万円)
Ⅳ.有期労働者 → 地域限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員 40万円
Ⅴ.無期労働者 → 地域限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員 10万円
*派遣労働者を派遣先の会社が正社員として雇用すると上記に15~30万円加算
*シングルマザー・シングルファザーで加算の場合あり
b.人材育成コース
職務能力向上のために教育訓練を実施した場合にもらえます。
Ⅰ.OFF-JT・・・学校の受講料等の経費 30~50万円(実費が限度)
その間の労働者の賃金補助 800円(1人1時間)
Ⅱ.OJT・・・職場内で先輩等が仕事を教えても、その間の賃金補助 800円
c.処遇改善コース
パートさん等に健康診断を実施したり、所定労働時間を増加させたりするともらえます。
Ⅰ.有期労働者の賃金表を2%以上増額し改定したら・・ 5~300万円
Ⅱ.正社員と共通の人事制度を導入したら・・60万円
Ⅲ.法定外の健康診断を実施・・40万円 延べ4人以上
Ⅳ.所定労働時間を30時間以上へ・・20万円(1人当たり)
2.長時間労働の是正
現状の「労使協定(36協定)」には、「月45時間」等の上限基準があります。しかし、これらに関わらず、特別な業種(運輸業等)に当たるときや特別条項(特別な繁忙時の特例)を付けたときは、事実上無制限となる場合があります。この残業規制を見直すことで、子育てや介護中の人や高齢者が柔軟に働きやすくしようとする動きがあります。
また、通信業や製造業において、終業から翌日の始業までの間に一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル規制」の導入も目指しています。
Ⅰ.労働法規制の執行強化(約10億円の概算要求)
欧米に比べて見劣りする労働生産性を向上させ、過重労働の防止・消費の拡大を図るため、
月80時間超の残業が疑われる全ての会社を調査する監督指導を行うとのこと。
Ⅱ.勤務間インターバル制導入支援(約20億円の概算要求)・・最大120万円支給
3.高齢者等の活躍推進(約190億円の概算要求)
定年について現状の法律は、60才(希望者は65才まで雇用義務あり)です。
これを近い将来、70才まで働けることをめざして考えられた制度です。
〇定年延長の助成金(65才超雇用推進助成金)の創設案
Ⅰ.定年を65才以上に引き上げた会社に・・・100万円支給
Ⅱ.66才以上の継続雇用制度を導入した会社に・・・60万円支給
Ⅲ.定年を廃止した会社に・・・120万円支給
4.労働生産性向上に向けた人材育成強化(雇用のミスマッチ解消)
従業員さん向けに教育訓練を実施した場合の助成金も積み増しされます。専門的な知識や技能を 身につけるための研修の経費や研修期間中の給与の一部が支給されます。また会社に評価制度や社内検定制度等を導入・実施した場合にも助成金がもらえます。
a.研修に対する助成(OFF-JT)
経費の1/3~1/2、賃金助成400~800円(1人1時間)
b.研修に対する助成(OJT)・・賃金助成700円(1人1時間)
c.制度導入コース・・・下記の制度を導入し実行すれば、各50万円支給
(1社につき各制度1回に限る)
①教育訓練・能力評価制度導入 ②セルフ・キャリアドッグ制度導入
③技能検定合格報奨金制度 ④教育訓練休暇等制度
※助成金には、上記の内容以外に様々な条件があります。必ず事前に当事務所までご連絡ください。
~人事評価制度で企業業績を伸ばそう!!~(2016年8月1日)

会社を経営していくなかで大切なものとして「人・物・金」とよく言われます。その中で一番重要なものは「人」であるとされています。しかし実際の優先順位は「人」が一番最後になっていることも多いです。「人」が最も重要な経営資源であるなら「人財として」生かし方を最優先に考えるべきです。そのためには新しい今の従業員さんの価値観に合う人事評価制度の構築が重要です。
しかし、いきなり会社にぴったり合った制度を作るのは至難の技です。「どの社員からも不満が出ない正しい制度」は理想ですが、とりあえずざっくりでもいいから作って運用してみる。そして不都合があったら変えればいいのです。会社ではまず「ルール」があることが重要であって初めから完璧なものはなくても可です。また人事評価制度は常にその時代、会社の規模、事業内容に合わせて作り変えていかなければなりません。
1.従業員さんの何を評価するのか
従業員さんを評価する場合、「人」ではなく「行動」を評価すべきとよく言われます。その社員の「人格」についての評価でなく「やったこと」について評価します。やったことを評価表等で数値化することで今後の行動を具体的に指示することができます。その前提として会社は経営方針を具体的にはっきりと表明する必要があります。経営方針に沿った行動が評価されるべきは当然のことです。また評価ポイントとしては基本として ①業績 ②意欲 ③能力の3点を従業員さんのレベルに応じてバランス配分評価します。具体化例として①業績評価 ②プロセス評価 ③方針共有 評価 ④環境整備評価の4項目で評価する考え方があります。
2.従業員さんの何を評価するか?
A:業績評価・・会社運営の根幹となる個人やチームの売上や売上利益等を評価するもので、それぞれの目標達成率や昨年対比の伸び率で評価します。
B:プロセス評価・・売上や利益等の数字だけでなくそのためのプロセスを評価するものです。ふつう業績だけで評価すると従業員の価値観が偏ってしまい。会社へのロイヤリティや帰属意識が薄れてしまいます。通常は以下のポイントで評価します。
①仕事の責任を自覚し、顧客第一の姿勢で仕事をしたか
②会社や上司の方針を十分理解していたか
③仕事での工夫や能率向上に努めたか
④上司や同僚との仕事上の報告・連絡・相談は的確だったか
⑤幅広くレベルの高い仕事ができるよう能力の向上に努めたか
⑥実行計画を常に意識して仕事を行っているか
c:方針共有評価・・会社方針との価値観の共有を評価するものです。
いくら能力が高い従業員さんでも、会社と価値観が違えば組織はバラバラになります。多少の失敗があっても仕事へのベクトルが同じなら会社としてパワーアップできます。勉強会や社員旅行、健康診断等の会社行事への参加により会社との価値観を共有しているかは大切です。
D:環境整備評価・・「仕事をやりやすくする環境を普段から整えているか」を評価します。
従業員さんは、ともすれば急ぎの仕事や目先の仕事に目を奪われがちです。そういう時、普段から机の上の整理や担当別の資料、毎日使用する設備等、ちょっと視点を高くして普段から仕事が潤滑に行く環境を整えておくことが大切です。
3.人事評価と賞与について・・通常、賞与は業績によって支払われます。毎月の給与が労働の対価なのに対して、賞与は成果(利益)の再配分と言えます。そのため「給与はお客様に感謝、賞与は社長に感謝!」と言われたりします。評価制度をしっかり運用して従業員さんの成果にしっかりと賞与で報いる~頑張った人と、頑張らなかった人の賞与に差をつけます。評価は社員を区別する仕組みです。「公平」とはみんなを同じことではありません。しっかりと差をつけることです。みんな同じなら頑張らない人が一番喜びます。
4.人事異動・・評価の結果から、次のステップとして人事異動があります。同じ仕事を長く続けていると、新鮮味が薄れすべてマンネリとなり客観性を失います。無理・無駄・ムラが放置されます。具体的には①仕事が属人化する~担当者しかその仕事がわからなくなる。人に仕事が付くとモンスター社員になったり不正の温床になりかねません。②上司が固定され部下の評価が固定化する。~無能な管理職が幅を利かせ「幹部」が「ガン部」になる。③新しいことに挑戦しなくなる。~同じ部署に長くいると自分は仕事ができると錯覚します。過去の経験にとらわれ変化や失敗を恐れるようになります。評価結果により的確に人事異動をおこない上記の弊害を避けなければなりません。参考図書「儲ける社長の人事評価のルール」小山昇著~人事評価制度のご相談は当事務所へ
残業とその残業代の支払について (2016年5月15日)

近年、残業代のトラブルが多発しています。法律によれば「労働」とは、給料は労働時間により支払うもので、労働時間に比例して賃金が増えるのは当然、というものです。この考え方そのものも、人工知能による第4次産業革命が言われる中、特にホワイトカラーについては時代錯誤と言えます。テキパキと短時間で成果をあげる従業員より、理解が遅く仕事が遅い従業員の方が給与が多いのは、どう考えてもおかしいです。そのため会社は、法律をよく熟知したうえで会社の立場から、労務環境を整備する必要があります。
1.こんなやり方は要注意!
下記のようなやり方は、労働基準監督署や裁判において通常は否認されます。会社は従業員さんと話し合い、承諾を得た上で、就業規則や雇用契約書を見直すなど社内体制を整備し、今後の運用を改める必要があります。慌てて実施して手続き等を誤ると、不利益変更になる場合があるので注意が必要です。
① 管理職に残業代を払っていない。
② 残業時間を10分、15分と切り捨てて払っている。
③ 営業手当を支給しているため残業手当を払っていない。
④ 年棒制だから残業手当はない。
⑤ 勝手に残業しているから払っていない。
⑥ 歩合給だから残業代を払っていない。
2.定額残業代とは
残業代トラブルに関して、企業側の対抗策として定額残業代の考え方があります。これは裁判所の判例として「労使間で時間外手当等を定額として支給することに合意したものであれば、本来の趣旨ではないが、直ちに無効とは言えず、通常の時間部分と時間外等の部分が明確に区分でき、通常の部分から計算した賃金との過不足額が計算できるのであれば、その部分を会社が払えば足りると解する余地がある。」とあるのを根拠とします。そのため、決まった判断基準のようなものは存在しません。同じような定額残業代であっても裁判ごとに判断は違います。裁判官の考え方やその時の状況に左右され判断されるのです。
3.定額残業代の設計ポイント
① 定額残業代の金額の独立・・・定額残業代は基本給とは別個の独立した手当とし、その全額を残業代とするのが安全です。
② 残業時間数の明示・・・最近は、定額残業代が何時間分か明示を求める裁判例が増加しています。従業員ごとの雇用契約書等でその残業代が何時間分なのか説明し、本人の同意を得ておけば安全です。
③ 超過分の差額精算の合意があるか、実際に精算しているか・・・定額残業代を超える残業がある場合は、残業代を追加支給することが必要です。規定にその表現があるかどうかよりも、実際の運用~実際に支給していたか~が求められます。
④ 本当の意味で残業代として支給しているか・・・役職や職務、経験等の「労働時間数」以外の要素で残業代の金額が変動するのは、本当に残業代なのか疑われます。しかし職種ごとの残業時間を実際に調査し、その結果に基づいて定額残業代を設定したということならば納得性は上がります。
⑤ 就業規則等への明記・・・「定額残業代」以外の「業務手当」「営業手当」等の呼称でも有効といえますが、就業規則や雇用契約書等で、それらが残業代である、との明記は必須です。できれば「定額残業代」の名称を使用し、超過分の支給には「追加残業代」と給与明細にも掲載した方が安全です。
⑥ 労使協定(36協定)との関係・・・残業は36協定の範囲内で合法です。36協定の限度基準は通常月45時間とされています。そのため、この限度時間を超えるような金額の設定は無効とされ、設定時間が極端に多いと会社の安全配慮義務違反も問われることが考えられます。
4.従業員さんの納得のために
今後、労働時間をめぐる問題はますます増加すると思われます。一部の専門家が労働者をあおり残業代請求ビジネスも登場しています。会社としては、自社の労働時間を認識し、それを改善する方向性を明確にすることが大切です。労働時間を短縮すれば、介護離職や女性労働者の離職をはじめ多くの労働者の離職も防げ、より良い人材を獲得できることで、昨今の人材不足も解消されるかもしれません。
正社員とパートさん(非正規)との違いについて (2016年3月15日)

安倍首相が年初の国会演説で「同一労働同一賃金」の実現を表明しました。また昨年9月には国会で同一労働同一賃金推進法が成立しています。言葉どおり「同一労働同一賃金」とは正社員、パートタイマー等の非正規社員の別に関わらず同じ仕事なら同じ賃金という意味です。「一物一価の原則」から言えば当たり前のことで欧米では職種別賃金の考え方から一般的になっています。しかし我が国では、導入はかなり困難だと言われています。
1.同一労働とは・・・
我が国では、正社員と非正規社員との賃金になんらかの格差があることが一般的です。多くの会社は賃金を「職種」ではなく勤続年数や経験によって昇給する「職能(職務遂行能力)給」を柱にしているからです。一方、同一賃金を導入している諸外国では賃金は仕事の種類である「職務」で支払われます。仕事の種類を明確にしてそれによって賃金が支払われるのです。原則的に勤続年数による昇給はありません。そのため昇給やキャリアアップを望むなら自分から自らにふさわしい職務や役職に応募し直しチャンスを掴まなければなりません。そのため、わが国の雇用は歴史的に「就職」でなく「就社」であると言われています。つまり、会社のなかでどんな仕事でも、どんな場所でも働くということです。その中で勤続年数や経験に応じて昇給していきます。こうしたことから、わが国では職務内容が曖昧なため「同一労働」かどうかの判別がしにくく「何をもって同一労働とするか」の検討が必要だと言われています。
2.正社員とパートさん(非正規)との違い
また我が国では実態として、正社員とパートさん(非正規)には以下のような違いがあります。
◎正社員は、フルタイムが前提のため人手不足の時、突発的な事態や繁忙期には長時間働くことが当然に求められます。
◎正社員は、日々の業務だけでなく懇親会や会社内での意見交換会等に出席することが暗黙の了解になっています。
◎正社員は管理職候補です。そのため会社は本人の将来をみこして人事異動(ジョブローテーション)をします。そのため辞令一枚で国内だけでなく海外にも転勤しなければなりません。転勤を拒否すると出世がおくれるという負担を背負っています。
◎正社員は終身雇用が原則です。そのため上司の業務外の要求を甘んじて受けねばならない場合があります。また共同体の団結のため「中堅社員研修」等各種の研修を受ける必要があります。これらのように我が国の企業は、我が国独特の創意工夫により経済発展してきたと言えます。
3.パート労働法について
ところが法律では、昨年春に改正施行されたパート労働法でも、同じ仕事のパートさんに対して賃金や福利厚生等を正社員と差別することは禁止されています。そのため賃金に差がある場合は、当面の対応としては正社員とパートで仕事の責任に差をつけなければなりません。例えば、ノルマの達成義務を厳格にしたり、パートさんへの指導・教育等の正社員にしかできない業務をはっきりさせ正社員の責任を重くする必要があります。そうしないと法律違反になります。労働局も専門の指導員をつけ各企業を訪問、指導しています。
4.今後の方向性は
同一労働同一賃金の実現には、非正規社員の賃金を上げるか、正社員の給料を下げなければなりません。どちらも企業側、労働者側からの反発は必至です。しかし今後、労働力不足が必然の我が国では、非正規社員にも正社員と同様に仕事への意欲を持ってもらい会社全体のパワーアップをはかり経済発展を進めていく必要があります。そのためパートさんに対しても正社員と同様に習熟度や経験、技能等を賃金に反映させる仕組みが必要です。従来からわが国の労働生産性は欧米に比べて低いと言われています。今後、上記の内容をいかに上手く運用するかに各企業や我が国の将来がかかっています。
パートさんの130万円の壁について (2016年1月1日)

パートで働く主婦層の従業員さんにとって、また働いてもらっている会社にとっても“130万円の壁"は大きな課題です。優秀なパートさんほど会社はもっと長く働いてもらいたいのに、前記の壁があるために、年末になると本人が自分の給料を自ら計算して働く時間を減らしてしまうからです。その結果、大切な繁忙期に人手が足りなくなってしまっては会社は大変です。
1.103万円の壁、130万円の壁について
税金では103万円、社会保険では130万円(60才以上等は180万円)という“壁"は一般によく知られています。税金では、年間の給与総額が103万円までは所得税がかかりません。さらにご主人には配偶者控除(38万円)がつきます。また、社会保険では同じく130万円まではご主人に養ってもらっているとして、ご主人の社会保険の扶養に保険料なしで入ることができます。ところが、問題はこれらの額をオーバーしてしまうといきなり税金や社会保険料が本人にかかるということです。多少給与が増えたとしても手取りの収入は逆に減ってしまうという逆転現象が起きてしまいます。これが“103万円の壁"“130万円の壁"と言われる所以で、就業制限が起きる原因となります。
政府も今後の労働力不足に備えて制度の見直しに動いていますが、なかなか実現はしていません。
2.税金の103万円の壁について
103万円の壁については、現在の税制では激変緩和措置が取られています。配偶者特別控 除という制度です。このため、たとえ給与総額が103万円を超えたとしても、141万円までは徐々にしか税金は増えません。働きに応じて手取りの収入も増えるため、大きな壁があるとまでは言えないでしょう。ただし、ご主人の会社での家族手当等の問題は存在します。企業では“従業員の家族まで面倒を見る"いう考え方から、家族手当などの名目で一定額を毎月支給している場合がありますが、こういった手当のご主人への支給基準が、税制に合わせて奥さんの収入が103万までとなっている場合が多いためです。超えた場合は手当がなくなり、家計としての影響は大です。我が国でも大企業などを中心として“配偶者への手当を廃止し、代わりに子供手当を"という動きも出ていますが、なにぶん他社の制度のため悩ましいところです。
3.社会保険の130万円の壁について
103万円の壁と違って、130万円の壁は依然存在します。パートさんが130万円を超えるとご主人の社会保険からは脱退する必要があります。保険料を払わず国民年金にも入ったとされる権利(第3号被保険者)も失います。パートさん自身が、働いている会社で自ら社会保険(健康保険、厚生年金)に入るか、または自ら手続きをして(市区町村)国民健康保険、国民年金に入らなければなりません。当然、各保険料の支払いが発生します。ただし、会社で社会保険に入ることができれば、各種給付や将来の年金も手厚くなります。(保険料は会社が半分支払う必要があります。)しかし、130万円を超えたからと言って、当然に会社の社会保険に加入できるとは限りません。なぜなら、社会保険の加入基準は給与額ではなく、原則として週の所定労働時間等(正社員の4分の3以上)で決まるからです。こちらもパートさんの就業制限の大きな原因となっています。
4.130万の壁が106万円の壁へ
これらの問題や財政問題等を解決するため、本年10月からは大企業(従業員501人以上)に 限って、社会保険の加入基準が広がります。今後、中小企業にも波及することは必至であり、中小 企業としても、より一層のきめ細かい雇用管理が重要になると思われます。
①週労働時間20時間以上
②年収106万円以上(月8万8千円以上)
③勤務期間1年以上
④従業員501人以上
5.パート就労拡大へ助成金
政府により、パートさんの就業調整による人手不足対策のため、新たな助成金の支給が発表されました。内容は、2016年4月~4年間の時限措置で
①大企業で2%、中小企業で3%の賃上げ
②パート労働者の働く時間を週5時間以上延長等 の条件で、労働時間の拡大に対してパート1人当あたり20万円、賃上げ率に応じて2万円以上支給するというものです。
(H27.12.5日経新聞)
健康診断とストレスチェック (2015年9月25日)

近年は業務の高度化もあり、うつ病や過労死が増加しており、メディアによる報道でも大きく取り扱われるようになっています。会社には従業員に対して安全配慮義務があり、従業員の健康状態を把握しておく責任があります。会社には従業員の健康状態の把握のため、法律では定期的な健康診断の実施が義務付けられています。今回はその定期健康診断と、今年12月から実施が義務化されるストレスチェックについてご説明します。
①定期健康診断は義務です
法律では、会社は従業員に対して1年ごとに1回、定期健康診断を実施しなければなりません。この定期健康診断は、正社員だけでなく、「常勤」とされるパートさんなども対象に含まれます。費用については法律の規定はありませんが、原則は会社が負担するものとされています。健康診断の内容については法律で定められており、一般に法定健診と言われているもので、具体的には次の通りです。
①問診(既往歴、業務歴、自覚症状等の有無)
②35歳と40歳以上の方は、次の内容も必要です。
⑤胸部X線検査 ⑥血液検査 ⑦心電図検査
身体測定(体重、視力、聴力)
③血圧測定 ④尿検査
上記の項目で法定の要件を満たします。費用も合理的な額で受けられます。
会社が健康診断の結果をしっかりと保管しておくことも大切です。
②ストレスチェックが始まります。
平成27年の12月から、50人以上の従業員がいる事業所では「ストレスチェック」の年1回の実施が義務になります。ストレスチェックとは、従業員の精神面をチェックし、前もって異常の兆候に気づくことにより、最近急増しているうつ病などの精神疾患を未然に防止するためのものです。既にストレスチェックの実施について、厚生労働省から「職業性ストレス簡易調査票」という見本が出ています。それぞれの項目は会社が独自に決めることもできますが、
(1)「職場のストレス要因」
(2)「心身のストレス反応」
(3)「周囲のサポート」
の項目が必要です。実施は原則として会社の産業医が担当します。会社は基本的に個人の結果については知ることができません。診断の結果、高いストレスがあると診断された従業員は、医師の面接を受けることができます。その結果によっては配置転換などの対応が必要です。今までは会社は従業員がうつ病になってから、慌てて対応を考えるということが普通でしたが、ストレスチェックを活用すれば事前に対応ができるようになります。
従業員がうつ病になってしまうと、会社も本人も大変です。そうならないために、ストレスチェックを実施して会社のリスク管理に役立てましょう。
職業性ストレス簡易調査票(一部抜粋)

③うつ病になってしまったら
万一従業員がうつ病になってしまった場合でも、下記の制度を利用すれば本人が給付を受けられるので、会社も本人も安心です。
・傷病手当金 ... 仕事を休んだ日について給与の2/3が支給されます。
要件を満たせば退職後も引き続き支給されます。
・障害年金 ... うつ病が障害と認定されれば、年金が支給されます。
・失業給付 ... 退職後、病気が治って再就職活動をする間、
給付が受けられます。
派遣労働法が変わります! (2015年7月25日)

非正規雇用の労働者が全体の3分の1を占める昨今、派遣社員さんを受け入れている会社さんも多いのではないでしょうか?これからの派遣社員の働き方を決める労働者派遣法改正案が国会で審議されています。改正案の中心は、26の専門業務を全廃して同じ職場で働ける期間を原則3年に限ることです。これは派遣社員をあくまで「臨時的・一時的」な働き方と位置づける国の考え方に基づくものです。成立すれば、本年9月にも施行され
る見通しです。従来の派遣の考え方が大きく変わります。派遣会社も
派遣を受け入れている会社も要注意です。
Ⅰ.4つの改正点と2つの注意点
改正①「業務単位」から「個人単位」の期間制限へ・・・現在は、派遣社員を受け入れている業務が3年経つと、派遣社員が変わっても、その業務を派遣に任せ続けることが出来ません。しかし今回の改正では、人が変われば、会社は同じ業務を派遣社員に任せ続けることが出来るようになります。
改正②専門26業務が廃止へ・・・ファイリングや事務用機器操作など専門性が必要とされる26の業務については、派遣社員の受け入れ期間に制限がありませんでしたが、改正によってその他の派遣業務と区別が無くなり、一律3年に限られます。
改正③派遣業の届出制を廃止・・・一般派遣事業の許可制、特定派遣事業の届出制の区別がなくなり、すべて許可制になります。
改正④雇用安定措置の強化・・・3年の継続派遣が見込まれる派遣社員について、
派遣元に対し、Ⓐ派遣先に派遣社員を直接雇用することを求める
Ⓑ次の派遣先を紹介する
Ⓒ派遣元で無期雇用にするなどが義務付けられます。
注意①労働契約申込みみなし制度・・・派遣先が違法派遣※と知りながら派遣労働者を受け
入れている場合、派遣先が派遣社員に対して直接雇用を申し込んだものとみなされ、派遣先が直接雇用しなければならなくなる制度で、本年10月から施行されます。
注意②5年超の契約社員への労働契約申込み制度・・・契約更新を繰り返して5年を超える
有期契約社員が希望すれば会社は本人を無期雇用にしなければならないというもの
です。これは派遣社員も例外ではありません。
Ⅱ.派遣社員の高度化・専門化
派遣社員が十分な教育訓練を受けられていない現状に対応するため、新たに派遣会社に対
し、「段階的かつ体系的な教育訓練の実施義務」が新設されます。許可の要件に「キャリア支援制度を有すること」が追加され、教育訓練等の実施内容を毎年国へ報告することも要求されます。これにより今後は派遣会社が派遣社員に対しどれだけの専門講座を用意できるのか問われます。国は派遣会社間の競争が起きるとみています。
今後はより高いスキルを派遣社員に求める動きがでてくる一方、単純業務は
短期・短時間の労働者に任せる形になり、二極化が進むと考えられます。
Ⅲ.キャリアアップ助成金等の拡充
上限3年を迎えても、優秀な派遣社員であれば会社で働き続けてもらいたいと思うはず。
国も派遣などの非正規社員を正社員に転換させたり処遇を改善させたりする会社への支援
強化を進めています。
◆支援強化①「キャリアアップ助成金」の拡充・・・
派遣社員などの非正規社員を無期雇用や正社員へ転換すると、1人当たり最大で
50万円支給される制度、および派遣社員を正社員として直接雇用する場合に
30万円(H27.4/1~実施)が加算される上乗せ制度の恒久化が検討されています。
◆支援強化②派遣会社に対する支援
また国は、派遣先による引き抜きにより大切な商品を奪われ打撃を受ける派遣
会社に対しても、補償金のような形で報酬が渡る仕組みを考え始めています。
今、人事労務で大事なこと (2015年5月25日)

わが国は景気回復にともない、人手不足が深刻になっています。また、社会の成熟化に対応して、社会保険や労務に関する多数の法律改正や運用の厳格化が 行われていることにより、会社の人事・労務環境は激変しています。同時に 若く新しい従業員さんの意識も変化しています。
やはり会社は、「人」です。「人財」と言われるように「良くできる人」を採用するため、また「普通の人」を「良い人」に育てるため、会社にとって人事・労務が大切な時代になりました。
1.人事・給与制度の確立
従業員さんが入社して最初に会社に求めることは、自分や家族の「生活の安定」です。そして次に会社における「自分自身の将来」です。人事や給与は、従来どちらかというと、“平均的で無難であることがよし"とされてきた時代があります。これは、既に出来ている“儲かる仕組み"を維持さえできれば よい、という気持ちからです。しかし、社会環境は激変しています。
これらの仕組みはすでに壊れてしまっているかも知れません。このやり方では、一番喜ぶのは「仕事ができない従業員さん」です。「仕事のできる従業員さん」は不満なはずです。これでは会社に活気が生まれるはずはありません。
①従業員の「キャリアアッププラン」の確立 ~職能要件書~
最近の従業員さんの最も多い転職理由は、「今の会社にいても自分の将来像が描けない」というものらしいです。従業員さんがこの会社で頑張れば自分自身が将来どうなるのか、例えば“あと十年後、結婚して子供が生まれたときに、自分はどういう立場でこの会社に関わっているのか"“どういう風に頑張ればどう出世できて、給与もどれくらい上がるのか"等を、明確なビジョンで示すことが大事です。
②給与制度、評価制度の確立
従業員さんが気にするのは「金額の差」でなく「評価の差」と言われます。同僚と比べて 自分がどう会社から思われているかが、ヤル気の源泉になります。納得性のある評価制度に より「給与がどう決まるのか、どうすれば給与が上がるのか」をはっきりさせ、従業員さんの ヤル気を高めていく必要があります。また評価を伝えないことが生産性を低下させるといわれています。人間は不安を抱えたままでは能力を 100%発揮できません。従業員さんに対して会社の評価を具体的に示すことが必要です。それにより不安や疑問が解消され、会社や経営者への忠誠心が高まり、仕事の生産性がアップします。
2.経営側の立場からの法律改正への対応 ~就業規則の整備~
最近は、会社の人事労務に関わる法律改正が多くおこなわれています。会社の安全配慮義務強化や残業問題の顕在化、パートさん対応の同一労働同一賃金要請など、国が会社に負担を強いる内容ばかりです。ますます大変な中小企業の対応には、コスト増がつきものです。しかし、わが国はますます契約社会に向かっています。従業員さんの意識も変化し、従来からの温情主義的経営だけでは思わぬトラブルに巻き込まれます。また漫然と規則を法律に合わせるだけではなく、会社としての立場もはっきりさせる対応が必要です。
〇最近の主な法律改正等の労務関係動向
①マイナンバー制(社会保障・税番号制度)の導入・・平成28.1実施
②プロフェッショナル人材制度の導入・・労働時間によらない賃金制度の導入
③裁量労働制の拡大・・提案営業、品質管理業務の新規導入
④中小企業の残業手当計算基準の強化・・中小企業も60H超50%へ
⑤年次有給休暇の義務化・・年5日の義務化
⑥障害者雇用納付金の強化・・罰金200人~100人超の会社へ
⑦社会保険対象者の拡大・・大企業は週20時間以上で加入義務化
⑧労働者派遣法の緩和・・派遣期間の3年の弾力化、26業務の撤廃
会社経営にとっての労務の基本 (2015年3月20日)

アベノミクスにより景気が回復基調です。株価も上昇し景気の先行きに明るさが広がっています。
一方、人手不足が各業界を悩ませています。ただでさえ従業員さんを雇う時は気を使うもの。まして
労務のコンプライアンス(法令遵守)レベルは大変上昇しています。従業員さんとの無用のトラブルがないように労務の知識は大切です。
〇労働条件を明示する~労働契約書について
会社は従業員さんが入社したり新しい待遇にしたりする場合には、法律により労働条件を明示(労働条件通知書)しなければなりません。給与の額や手当の支給の有無、労働時間や休日のこと等会社と従業員という立場が違えばお互いの受け止め方はマチマチです。思い込みや誤解を防ぐためにも労働条件は具体的に説明し文書で交付するようにしましょう。
また労働条件通知書は、あくまで通知書であり従業員さんのサインや押印が無いものです。トラブルになった時は「雇用契約書」のほうが、それらがあるため効力ははるかに勝ります。
できれば雇用契約書を取り交わすほうが万全です。
~雇用契約書等の記載内容~
〇事業所での備付帳簿について
雇用契約書以外にも会社は、その従業員に関する帳簿を作成し備え付けておく必要があります。
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿がこれにあたり前記の2者については記載項目について法律に定めがあります。
①労働者名簿(社員名簿)
法律では事業所ごと労働者ごとに作成が義務付けられています。目的は本人情報の適正把握のため労働者名簿には、別表のとおり氏名や性別、生年月日などを記載しなければなりません。また労働法は場所別の適用のため本社以外に支店等がある場合は場所別に作成、保管する必要があります。パソコン等で作成してもよく、法定以外の情報もOKです。
②賃金台帳(給与台帳)
事業所ごとに、賃金を支払うたびに労働者別に賃金台帳を作成することが義務付けられています。賃金台帳には、労働時間数や時間外労働時間数等の記載が必要です。そのため源泉徴収簿で代用することには無理があります。また有給休暇の日数、時間数の記入も要請されています。賃金台帳には氏名や給与の額は当然として別表の項目が必要です。
③出勤簿をつける
会社は従業員さんの労働時間等を把握する義務があります。出勤簿はこれらの労働時間数を確認するための帳簿です。しかし出勤簿は前述のものと違って何を記載すべきかはまでは定められていません。厚生労働省の通達によると①使用者が自ら現認し記録する②タイムカードやICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録することとされています。また正しい方法で行われているのであれば自己申告制による方法も可能です。しかし、自己申告制は、労働時間を過少に申告しても問題ですし、過大に申告しても問題になります。
労災保険の特別加入制度 (2015年1月15日)

労災保険(労働者災害補償保険)は本来、仕事中や通勤途中の従業員さんを保護するためのもので、仕事以外の傷病と違って手厚い保険給付が受けられる制度です。しかし労災の対象とならない社長さんや一部の人は、仕事中の怪我に自費での多額の治療費を要するなど、思わぬ落とし穴があり、対応を間違えると大変なことになりかねません。そこで、「特別加入制度」を利用して事前に対策をとっておくことが大切です。
Ⅰ.中小事業主の特別加入
中小企業の社長さんや役員さんの中には、従業員さんと一緒に現場で仕事をしている方も少なくありません。しかし社長さんや役員さんは、労働者ではないので仕事中に怪我をしても労災保険で治療を受けることはできません。しかも、健康保険は業務外が対象となるため、健康保険の治療も受けることができないのです。
こうした保険の谷間にいる中小企業の経営者のために「中小事業主の特別加入制度」があります。特別加入することで、仕事中はもちろん通勤中の怪我についても無料で治療を受けられます。また仕事を休むことになり会社から給与が出なくても、国から給与日額の80%が治るまでの日数分支給されます。保険料は本人の報酬をもとに日額3,500円~25,000円の間で自分で決めて算出します。
補償の範囲は、上記の趣旨から通勤中や従業員さんと同様の仕事を行っているときの怪我ですので、経営業務の際の怪我は対象外です。
粉じん作業や振動業務、有毒物を取り扱う業務に一定期間従事したことがある人は、特別加入の申請前に特定の健康診断を受ける必要があります。
Ⅱ.一人親方の特別加入
建設業に従事している大工、左官、とび職人などの方で従業員を雇っていない「一人親方」さんは、特別加入をすることができます。下請事業者として工事を行うとき、元請事業者から仕事を発注する条件として特別加入を求められることも多く、万一の事故に備えるためにも加入しておきましょう。また従業員さんを雇う場合であっても1年間に延べ100日未満であれば一人親方として特別加入することができます。補償の内容は中小事業主と同じです。
Ⅲ.海外派遣者の特別加入
自社の従業員さんを海外へ送り出す場合、「海外出張」と「海外派遣」の2つの考え方があります。「海外出張」であれば、労災保険は日本で入ったまま使えます。特別な手続きは必要ありません。しかし「海外派遣」の場合、一般の労災保険は使えなくなります。そこで海外派遣者特別加入が必要となります。
1「海外出張」と「海外派遣」の違い・・・
「海外出張」は、「単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、日本国内の事業場に所属し、日本国内からの指揮命令に従って勤務すること」とされています。例えば、①商談②技術・仕様などの打ち合わせ③市場調査・会議・視察・見学④アフターサービス⑤現地での突発的なトラブル対処などが挙げられます。
これに対して「海外派遣」は、「海外の事業場に所属して、海外の事業場の指揮命令に従って勤務すること」とされています。例えば、①海外関連会社への出向②海外支店または営業所への転勤③海外で行う建設工事への従事などが挙げられます。
「海外出張」と「海外派遣」のどちらに当たるかは、国内と海外のどちらの上司から指揮を受けているかを基準に勤務実態によって総合的に判断されます。
2その他加入の要件など・・・
在籍出向などで日本の会社から給与の全部又は一部が支払われている場合で、海外事業に従業員又は役員等(労働者でない立場)として赴任する人が加入できます。
転籍などで日本の会社を退職して現地法人等との雇用関係のみとなる場合は、特別加入がで
きませんので、現地国の保険制度を使うことになります。
出向として海外派遣する際は、出向通知書等を整備し、指揮命令関係の所在、給与
の支払方法など出向の内容を明確にしておきましょう。補償の内容については中小
事業主や一人親方と同じです。また、既に海外に赴任している人も加入できます。
障害者雇用促進法 (2014年11月15日)

社会が高度・成熟化した日本では、障害の有無・年齢・性別・国籍・人種等に関わらず、すべての人が平等に生活できる環境を整える『ユニバーサルデザイン』の理念が普及してきており、高齢者や障害のある方等の社会参画への関心が高まっています。特に障害者の方については、“身体的な能力などの違いに関係なく個性を生かして働ける場を"との考えから「障害者雇用促進法」という法律で、わが国は企業に一定割合以上の雇用を義務づけています。
▶ここでいう障害者とは?
身体・知的・精神のいずれかの障害があり、原則として手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳など)で確認できる方を指します。ただし、身体障害で1番軽い7級の単一障害の方 だけは、手帳をお持ちでも対象外です。(7級障害が2つ以上の方は対象)
▶従業員50人で1人の雇用が必要 ~201人以上の会社では罰金も~
法によれば、会社は従業員50人につき、障害者の方1人の雇用義務があります。100人で2人、200人で4人が原則です。(法定雇用率2.0%)従業員49人以下の会社では、現状は雇用義務はありません。
ただし、たとえ従業員数が50人以上でも、短時間パートさんばかりの会社では、障害者の方の雇用 義務は発生しないこともあり、従業員数の数え方は押さえておきたいポイントです。
また、病院や警備業など、障害者の方が働くのが難しい一部の業種においては、「除外率(%)」という従業員数を減らして数える特例があります。こちらも必ずチェックしておきましょう。
なお、障害者の方の雇用人数も、上の考え方(例外1)と同じで、所定労働時間で数え方が変わります。また、身体・知的障害において重度障害者の方は、1人を2人と数えられます。
▶雇用できなかったら・・・?
□1障害者雇用納付金
従業員201人以上の会社で、障害者の方の雇用が法定雇用率2.0%に満たない場合、不足1人
につき月4~5万円の納付金(罰金)の支払が発生します。その納付金を原資として、法定を上回る会社には、逆に、超過1人につき月2.7万円の報奨金が支給されます。※平成27年4月~101人以上の会社も対象になります! 仮に、101人の会社で障害者の方が0人の場合、4万円×不足2人×12ヶ月= 96万円(年間)もの納付金が発生します。
□2行政指導・企業名公表
最近では、ハローワークがこの法律の普及・徹底に非常に力を入れており、①従業員150人規模で障害者の方がゼロの会社や②従業員250人規模で全国平均の障害者雇用率を下回る会社など、職員が会社訪問の上、行政指導(障害者雇用計画の作成命令、定期報告の義務づけ等)を行っています。なお、一定期間 経過後も改善が見られない場合は、最終的に企業名公表となります。
▶障害者の方を受け入れるには?
□1ハローワークに協力してもらう
ハローワークで障害者の方向けの専用求人を出せます。職場の段差・手すりの有無等の追加情報があれば、一般の求人票と同様に出せます。また、相談すれば、登録している障害者の方を集めてのハローワークでの面接会実施や、ジョブコーチ(仕事・職場に慣れるまでのサポートをしてくれる人)派遣などもあります。また、ハローワーク経由で採用すると、助成金が使えるのも大きいです。
□2支援学校や訓練校に紹介してもらう
各地に障害者の方の支援学校や訓練校(インターネットで検索可)があります。学校へ直接連絡して、 生徒さんに実習に来てもらい、よければ雇用に切り変えるというのも1つの方法です。
実習の間は給与の支払いは不要で、適性を見てから採用の判断ができるのがメリットです。
□3その他・・・
実は、既に障害をお持ちの従業員さんが社内におられることもあるかもしれません。 ペースメーカーや人工関節など内部障害で手帳をお持ちの方もおられるため、一見しただけではわからないこともあります。新たな採用を考える他に、社内を探してみてもよいかもしれません。入社時や平素は、ご本人からはなかなか言い出しにくいものです。なお、社内で障害者の方を確認、把握する際には、プライバシーに十分ご配慮ください。
社会保険加入のメリット (2014年9月15日)

会社で加入し、毎月保険料を支払っている社会保険。よく理解していざという時
活用しなければ損です。せっかくの保険料を無駄に支払うことにもなりかねません。
1.家族の多い人の保険料がオトク
保険料は毎月の給与をベースに決め、扶養家族が何人いても保険料が増えることがありません。国民健康保険のように家族一人あたりいくらという考え方(均等割)はないので、家族の多い人にとってはとても有利です。また出産や育児で仕事を休むときには保険料の免除制度もあります。
2.給付が充実していてオトク
社会保険は病気・ケガ・出産等で仕事ができないときの所得補償保険でもあります。『傷病手当金』や『出産手当金』など、国民健康保険に比べて給付が充実しています。
①傷病手当金
病気やケガのために働くことができず、給与を受けられないとき(欠勤や休職中)
には『傷病手当金』がもらえます。傷病手当金は働けなくなってから4日目以降に
給与(標準報酬)の2/3相当額が1年半もらえる制度です。
≪a.最長1年半だけど≫傷病手当金を1年半もらいきったあとに、他の病気
やケガで再び休む場合にも、また1年半までもらうことができます。
≪b.4日目の考え方≫働けない日が3日連続すれば4日目からもらえますが、この3日は会社の休日でもOKです。
≪c.退職後も≫休職中のまま復職できず退職する場合でも、退職時に傷病手当金をもらっているときは引き続き当初から1年半までもらい続けることができます。
ただし、退職してからの「任意継続被保険者」である期間中に発生した病気・ケガについてはもらえません。
②出産手当金
従業員さんが出産のために休むとき(産前産後休業)には、『出産手当金』がもらえます。出産前後約100日間が対象で、給与20万円の人で約43万円です。産前産後休業中にやむをえず退職する場合であっても、傷病手当金と同じく引き続きもらうことができます。※出産手当金と傷病手当金を同時にもらうことはできませんが(出産手当金が優先)、つわりがひどい場合や切迫流産等で産前6週より前から休む場合は傷病手当金が申請できます。
3.まだまだオトクな給付
①高額療養費医療費が高額になると家計にも大きく響いてしまいます。そこで、1ヶ月間に同じ医療機関ごとでかかった自己負担の医療費が約8万円(高額所得者は約15万円)以上となった場合はその差額が返ってくる制度です。
≪a.別の医療機関での医療費も合算できます≫21,000円以上の医療費なら別の医療機関分でも合計して8万円以上となれば高額療養費の対象です。
≪b.家族分も合算できます≫家族も同じ月に医療費が1ヶ所で21,000円以上かかった場合はその分を足して8万円以上であれば差額が返ってきます。
≪c.高額になるのが分かっているとき≫8万円以上の差額は返ってきますが、それでもまとまったお金を先に用意するのは大変です。そこで事前に申請することで「限度額適用認定証」が受けられ、病院等での窓口負担が最初から8万円で済むという制度があります。最近はこれを使うことが一般的です。
≪d.4回目からは負担軽減≫直近1年間に3回以上高額療養費を使っていると4回目からは自己負担額が約4万4千円(高額所得者は8万3千円)まで軽減されます。
②出産育児一時金出産すると1子あたり42万円の『出産育児一時金』がもらえます。出産は病気ではないので通常健康保険が効かず自費となります。
≪a.国からの直接支払制度≫子供が産まれるのはめでたくうれしいことですが、一度に出産費用を支払うのはとても大変です。そこで病院等に費用を支払うのではなく、国から病院等に直接支払ってくれる制度があります。出産育児一時金は1子あたり42万円ですので、本来出産費用が50万円かかるときでも残りの8万円を支払えば済みます。また出産費用が40万円だったときは差額の2万円が健康保険から支給されます。
≪b.退職してからも半年以内ならOK≫1年以上社会保険に入っていた人であれば、辞めてから半年以内の出産ならもらえます。
③療養費コルセットや義手、小児弱視治療用メガネなど「治療用装具」と呼
ばれるものを、医師の指示により装着したときは、一部費用(70%)が返ってきます
パートタイマー雇用のポイント (2014年7月25日)

働き方の多様化が進んでいる現在、パートタイマーは比率も高くなり、経営上重要な存在です。パートさんの雇用については、人ごとに「労働時間」や「契約期間」などの労働条件が異なることも多く、正社員さん以上に注意が必要です。
1.パートタイマーとは?
法律上「パートタイマー」とは、1週間の所定労働時間が会社の普通の社員に比べて短い労働者とされています。「パートタイマー」だけでなく「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「準社員」「臨時社員」等呼び方はちがっても、労働時間が短ければパートタイマーにあたります。また会社に同種の業務を行う正規型の従業員はいないものの、フルタイムで基幹的な働き方をする者がいるときは、その従業員さんが通常の労働者と考えられます。
2.パートタイマーと社会保険
パートさんが対象の社会保険には、①雇用保険と②社会保険(健康保険・厚生年金保険)があります。たとえパートさんであっても、要件を満たせば雇用保険や社会保険に加入する必要があるのです。加入基準は雇用保険と社会保険で違いがあります。
○雇用保険は・・・①週の所定労働時間が20時間以上で、②31日以上の雇用見込みがあること
○社会保険は・・・①1日の所定労働時間、②1ヶ月の所定労働日数が正社員さんと比べて3/4以上であること
例えば…正社員さんが週40時間労働として、1日8時間労働で4日出勤すれば週32時間で3/4以上となり社会保険に加入する必要がでてきます。
国は、将来の低年金者や無年金者を減らそうと加入者増に力をいれているため社会保険の調査を強力に進めています。調査の主要なポイントは、加入すべきパートさんが加入しているかどうかです。パートさんであっても、要件を満たせば本人の希望にかかわらず雇用保険や社会保険に加入する必要があります。
3.パートタイム労働法が改正されました
パートタイム労働法が今年4月に改正され、来年4月1日より施行されることが決まりました。
内容は「同一労働同一賃金の原則」の強化です。正社員と同じ仕事なら同じ給料、同じ待遇にするという考え方です。
A.正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイマーが拡大されました。
(注)・職務の内容とは・・実際の業務とそれに伴う責任の程度も考え、中核的業務が実際に同じかどうか、与えられている責任の程度、期待されている成果やトラブル等緊急時の対応等を比較して判断します。
・人材活用の仕組みとは・・人事異動の有無や範囲を考えます。現在や将来の配置転換、
昇進、会社の就業規則や慣行等で判断します。
配置転換や昇進もその範囲(全国かエリア限定か等)で考えます。
また上記のパートさんについては、給与の決定だけでなく、教育訓練の実施、福利厚生施設の
利用等についても差別することが禁止されます。
B.「短時間労働者の待遇の原則」という考え方が新設されました。
これは会社が正社員とパートタイマーとの待遇を変える場合は、「職務の内容や人材活用の仕組み等を考慮して不合理であってはならない」という考え方です。
またこの他にも、下記の項目が義務づけられます。
C.パートさんへの採用時の説明義務(給与制度や正社員転換制度など)
D.パートさんからの相談窓口の設置
そのため、今後は上記の内容をしっかり理解し、正社員さんとパートさんの職務内容等にメリハリをつけて運用する必要があります。
4.パート就業規則は正社員と別に作りましょう
上記の考え方から、今後は社員さんとパートさんとを明確に労務管理上区別する必要があります。社員さんとパートさんで同じ就業規則を使い、パートさんに適用する範囲が中途半端だと正社員さんのためのルールがパートさんにも適用される可能性が出てきます。パートさんにはパートさんなりの労働条件やルールを明確にして働きやすい環境を整備しましょう。
見直してみてください~休職制度~ (2014年5月15日)

従業員さんが病気やケガで長期間働けない場合などに利用される「休職制度」。
本来の意味やポイントを押さえて、いま一度、見直してみてはいかがでしょうか?
▶休職制度の意義目的
休職は法律で決められた制度ではなく、導入するかどうか、またその中身は会社が自由に決めることができます。労働契約とは、従業員さんが“労務提供義務"を負う代わりに、会社は“給与を払う"という契約のため、義務を果たせない場合は債務不履行で、本来は契約解除=解雇となっても仕方がないものです。
しかし、長年働いた従業員さんをいきなり解雇というのも…ということで「解雇の猶予処分」として休職制度が登場します。これには、“病気になっても一定期間は治療に専念できる制度がある"と従業員さんに安心感を与え、仕事に専念してもらう効果や、万一復職できなかった場合にも「休職期間満了による自然退職」として辞めてもらいやすいというメリットがあります。また、解雇のように、助成金や雇用促進税制が使えなくなるペナルティもありません。
▶休職制度のポイント
□1主導権は会社にある
休職は「私休みます」「戻れそうなので戻ります」と従業員さんが勝手にするものではなく、「療養が必要な状態だから、休みなさい」と会社が“命令"して初めて機能する制度にしておきましょう。こうしておけば、本人が大丈夫と言っているが、精神的な問題などで、どう見てもちゃんと仕事ができていない、という時にも休職を命じられます。(復職でも同様)
□2メンタル不全にも対応できるようにする
古い就業規則の場合、大怪我や内臓疾患など“従来型の病気"への適用のみを想定した休職制度が多いですが、これでは、出勤・欠勤を繰り返したり、復職してもまたすぐに再発したりといった“うつ病などの精神疾患"には対応できません。“断続的な欠勤でも通算○ヶ月になれば休職を発令する"旨や、“休職期間自体の通算規定"“復職の取消規定"なども盛り込むとよいでしょう。
□3休職期間は長くしすぎない
大企業では休職2~3年が普通ですが、人が少ない中小企業ではそんなに待てません。中には「従業員のために休職期間は長くしてやりたい」という社長さんもおられますが、 あまり長いのはおすすめできません。というのも、病気やケガで休んだ時に健康保険から出る“傷病手当金"は、退職後も含めて最高1年半しか貰えないからです。傷病手当金も切れ、仕事もなくなる…となると、退職時にわだかまりが残りがちです。中小企業では、長くとも1年程度の設定が望ましいでしょう。
□4休職発令は書面で行う
従業員さんへの休職発令は、①休職期間はいつまでか ②その日までに復職できなければ自然退職となる旨 ③休職中の社会保険料等の取り扱い 等について記載した書面で行いましょう。発令をきちんと行わないまま休職期間が満了し、「治ってないから今日で退職」というのでは、トラブルの素です。従業員さんの納得性を高めるためにも、忘れずに行いましょう。
□5復職時にも注意が必要
休職期間が満了した時には、①治癒していれば復職させる ②治癒していなければ自然退職 のどちらかです。ここで重要なのは、「治癒」の判断は、会社が行うということです。“復職可"という主治医の診断書が出ても、それだけで決まるわけではありません。“短時間のみ就労可"“対人業務を除いて復職可"など条件付きの診断書が出た場合も、これを認めるかどうかは会社次第です。就業規則には、「産業医等(会社に関与し、仕事内容も理解した医師)の意見も聴き、会社が認めた場合は復職させる」という風に記載すると良いでしょう。無理に復職させ、何かあった場合には会社は安全配慮義務違反で責任を問われることもあります。復職判断は慎重を期します。
* 安全配慮義務:「労働契約に伴い、会社は従業員が安全・健康に働けるよう必要な配慮をしなければならない」という法律上の義務。
また、復職前のテスト出勤として行われる、いわゆる「リハビリ出勤」については 誤解が多いです。リハビリだから無給で、と思いがちですが、軽作業であっても働かせる以上は給与が必要です。一方、仕事はさせず「おはようございます」「さようなら」といった単なる出勤訓練の場合は、給与は不要ですが、自宅~会社の間に万一事故にあっても労災は使えない可能性が高く、こちらも注意が必要です。
▶最後に・・・
会社にとって従業員さんは大切な存在です。休職しても、また復帰して仕事を頑張ってくれれば一番良いですが、ダラダラ休む、何度も休職を繰り返すという従業員さんには困ってしまいます。手厚い休職制度は、逆にその人の仕事もカバーし、頑張って働いている他の従業員さんのモチベーションを低下させてしまう場合があります。
☞休職期間等の見直しにあたっては、不利益変更にあたる場合があります。事前に当事務所までご相談ください。
会社を上手に運営していくために (2014年3月15日)

会社に貢献した社員に対しては「表彰」制度を活用し、より一層のヤル気アップにつなげてもらうとともに、社内モラルを維持し、社員みんなが同じ目標に向かって頑張っていける強い組織を作っていくために、ルール違反を犯す社員に対してはキッチリと「懲戒」処分を下すことが大事です。
●表彰制度の活用でモチベーションアップ!
表彰制度の目的は成績優秀者を表彰することで、その社員のモチベーションをアップさせるとともに社内を活性化したり業績を向上させることです。自分の業務や行動が会社や他の人に認められることは誰でもうれしく、誇らしいことです。また、他の社員の前で表彰することで周りの社員も「次は自分も表彰されるように頑張ろう!」という気持ちが芽生えることもあり得ます。
●表彰のあれこれ
社内表彰には、主に次のようなものがあります。
区分 定義
永年勤続 永年の実績や、経験・ノウハウの伝承等の貢献のあった一定年数以上の勤続者
改善・提案 生産性アップ等に貢献する会社の事業・業務に関する着想、改善意見の提案者
功績 業務効率、生産・販売成績の向上などで著しい功績をあげた成績優秀者
職務発明・考案 新製品や新技術の開発、従来製品の改良など、業務上有益な発明考案や特許・意匠登録を申請した者
善行 人命救助や社会奉仕などで公的機関から表彰を受けたり他の従業員の模範となるような行為のあった者
無事故・無災害 リスクマネジメントとして一定期間無事故、安全運転等で勤務成績の良好な者
●表彰のポイント
せっかくいい表彰制度を作っても実際に運用できていなかったり、運用の仕方を間違えては逆効果です。表彰を効果的に行うには、全社員にとって平等な制度であること、基準を明確にすること、タイムリーに行うことがポイントです。頑張って成果を挙げた社員を表彰するのが本来の目的なので、残業や休日出勤等の普段の働きぶりだけを見て成果を見ずに雰囲気だけで頑張っていると評価してしまうのはダメです。また鉄は熱いうちに打てということわざもあるように、表彰に値する成果や行動があった場合にはできるだけタイムラグのないように表彰する方が効果的です。
●懲戒とは
一方、懲戒は、遅刻や無断欠勤、職場の風紀を乱す、情報漏えいなど、会社の秩序を乱し、ルールに反したときに社員に与える制裁です。甘く考えて「今回は大目に見るか」と懲戒を行わないでいると、ちゃんと真面目に働いている社員さんの士気に影響してしまうので、適切に行うことが大事です。懲戒には軽いものから順にけん責(訓戒・戒告ともいう)、減給、出勤停止、降職・降格・降給、諭旨解雇、懲戒解雇などがあり、社員のルール違反の程度に応じて会社が処分を決めます。中でも、特に事例が多いと思われるけん責と懲戒解雇について見てみます。
☆けん責(訓戒、戒告ともいう)ルール違反に対する注意に当たるもので、始末書を提出させて将来を戒めることです。始末書とは、事の顛末を記載し本人の謝罪の意や「二度としません」という誓約文を書かせた書面で、自分の行った事の重大さを気付かせ反省させる点で非常に重要な書類となります。また始末書の提出も就業規則に規定している以上社内ルールの一つであり、これに従わないのは業務命令違反と言えます。勤務態度を改めてほ
しい、というのが一番の目的ですが、その後の指導のためにも必ず始末
書はとっておきたいところです。
☆懲戒解雇最も重い懲戒処分であり、予告期間をおくことなく即時
解雇するというケースがほとんどです。
会社があらゆる手を尽くして教育的指導を行っても社員が立ち直る見込
みがない場合にはじめて懲戒解雇という手段をとることになります。い
きなり懲戒解雇にしてしまった結果トラブルが大きくなった、というこ
とにならないように始末書や指導記録(日時、ルール違反の内容、指導
内容等)といった文書での証拠を残しておくことが大事です。
なお、法律上は「解雇」に当たりますので労働基準監督署の認定(解雇
予告除外認定)を受けずに即時解雇を行うには解雇予告手当が必要です。
●懲戒処分を行うには・・・
懲戒処分の運用ルールとして次のことに注意が必要です。
○明確性懲戒処分の種類、事由、程度が就業規則に明記され、周知されていること。
○平等待遇違反行為が同じであれば人によって処分の重さを変えないこと。
○相当性違反行為の重大性と懲戒処分の重さの程度の釣り合いがとれていること。
○一事不再理原則として同一の事案に対して二重の処分はできないこと。
ただし、懲戒処分を行った後でも賞与の減額は認められます。ルール違反を人事評価に考慮することは法律に触れることではないからです。なお民事上の損害賠償請求を別途行うことも懲戒処分ではないので問題ありません。
仕事中の車両事故と会社のリスク (2014年1月15日)

1.車両事故で問われる企業の責任
毎年、死亡事故など被害の大きな事故が、依然として
発生しています。自動車での営業活動や、マイカーや私
有自転車での通勤を許可している会社にとって、万が一
会社や従業員さんの落ち度で事故が発生した場合には、
会社は社会的信用を失墜するだけでなく、損害賠償責任も負うことになります。世論の動きに対応して、交通法規違反の取締りや罰則も強化されています。昨年の道路交通法の改正により「無免許運転」や「自転車運転」についても罰則が強化されていますので、会社としては、運転業務に従事する従業員さんには「必ず運転免許証の提示を求める」「確実に任意保険に加入しているかを確認する」「運転に支障のある病気にかかっていないことを確認する」などの対策が必要です。
2.損害賠償責任の種類
会社が負う「損害賠償責任」は、大きく分けると下記の2種類です。
①運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責(せめ)に任ずる」と定められており、これを「運行供用者責任」と言います。要するに「自分の利益のために他人に自動車を運転させる者は、その利益も得るが、万が一の事故の責任も負う」ということです。会社が所有する自動車はもちろん、リースしている自動車や従業員さんのマイカーであっても、また、事故の発生が業務中ではなく帰宅途中など通勤中の場合であっても、会社は「運行供用者」にあたり、損害賠償義務を負う場合があります。
具体的には
・マイカーを使用した営業活動中の事故
・社用車で帰宅する途中の事故
などは、会社が上記のような自動車の使い方を認めていたことになり、運行供用者だとされる場合があります。運行供用者責任は、実質的には無過失責任(その行為について故意・過失が無くても、損害賠償の責任を負うこと)に近く、非常に厳しい責任だといえます。
②使用者責任(民法715条)
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められており、これを「使用者責任」と言います。
この「他人を使用する」とは、自社の従業員さんだけではなく「仕事を依頼して仕事をさせる関係にあるか否か」が問題になりますので、「元請けと下請け」のように、指揮命令関係が認められる場合には、使用者責任が発生します。
使用者責任は、自転車にも適用されるため、業務中に自転車による交通事故が発生した場合、会社は使用者責任を負う可能性があります。自転車の場合については、つい法律や規則を疎かにしがちです。しかし法令違反は、過失相殺(被害者にも過失があるときに、その過失責任の割合に応じて損害額を減額すること)に大きく影響し、会社の責任を増大させる可能性もあります。また、運行供用者責任が人損のみに適用されるのに対して、使用者責任は物損にも適用されるため、物件損害について特に問題になります。
3.企業がとるべき対策は?
会社は、従業員が適切に車両を管理し、安全に運転できるように、社内で規程(ルール)を
作成し、それを着実に運用することが大切です。規程の種類は次の3つがあります。
①社有車管理規程
社有車の管理について定めるものです。会社で当然入られていると思いますが、任意保険への加入についても、記載しておきます。また、無免許運転や危険運転を防止するために、運転に従事する従業員さんについては許可制とし、許可する場合には「規程を遵守すること」「故意・重大な過失で、他者に損害を与えたときは、自己の責任で補償すること」などを誓約させ、運転免許証の提示とともに定期的に更新するとよいでしょう。
②マイカー通勤取扱規程
通勤途上の事故については、原則会社に責任はありませんが、残業で遅くなっての帰宅時等、状況に よっては、マイカー通勤で発生した事故についても、会社が賠償責任を負う可能性があります。これを 防止するために、マイカー通勤を許可制とし、自動車保険への加入を義務付けることは必須です。社有車管理規程と同様、誓約書の提出を求めます。
③マイカー業務使用規程
マイカーを業務に使用すると、従業員の私用との区別が曖昧になり、会社が運行供用者責任を負うリスクが高まりますので、マイカーの業務使用は避けた方がよいでしょう。しかし、やむなくマイカーの業務使用を認める場合は、マイカー業務使用規程を定め、保険加入や事故時の対応などを明確にした上で、許可制にして適切に管理する必要があります。 ☞詳しくは、当事務所へお問い合わせください。
知っておきたい労働時間制度のポイント (2013年11月15日)

1.労働時間制度をめぐる動き
現在、政府内で労働時間ルールを見直す議論が行われています。そもそも労
働基準法における労働時間の考え方は、集団作業に従事する工場労働に基づい
ており、現在の多様化・複雑化する働き方とは大きなギャップを生じています。
こうしたギャップを埋めるため、働く時間の配分や仕事の進め方を社員さんに
任せる「裁量労働制」の拡大や、一定の範囲内で就業時間を社員さん自身が決
める「フレックスタイム制」を柔軟に運用できるようにする議論がなされてい
ます。
また、「裁量労働制」からさらに一歩踏み込んだものとして、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入が検討されています。これは年収が一定以上の事務職等の社員さんを対象に、労働時間の規制を完全になくすものです。
世の中の情報化・サービス化に伴って、働き方も大きく変わってきています。時代に即した労働時間制度へ・・・今後の改革が注目されるところです。
2.労働時間制度・・・
労働時間は、原則として一日8時間、一週間40時間(10人未満の小売業や飲食業などは、特例で44時間)以内と法律で定められています。この時間を超えると残業代(割増賃金)を支払う必要があります。しかし、会社の実態に応じて次のような働き方をすることで、労働時間の効率化や残業代の削減を図ることもできます。
①一年単位制・・・・・・一年間を平均して週40時間以内であれば、特定の日や週に一日8時間、一週
間40時間を超えても残業代は不要という制度です。建設業や百貨店などの販
売業のように時季により繁忙期と閑散期がある会社向けです。
②一ヶ月単位制・・・・・・こちらは一ヶ月間を平均して週40時間(特例の場合44時間)以内にする制
度です。警備業や介護事業などの夜間勤務がある会社向けです。
③フレックスタイム制・・・一ヶ月間の総労働時間と一日のコアタイム(必ず勤務しなければならない時間)のみを決めて、出退勤の時間を社員さんに任せるという制度です。
④みなし(裁量)労働制・・専門業務や企画業務には、高い専門性と創造性が求められるため、労働時間だけでその仕事を評価することは適切ではないと考え、仕事の進め方や時間配分を社員さんに任せて、実際の労働時間とは関係なく、一定時間労働したものとみなす制度です。
A.事業場外・・・営業など社外での勤務時間の把握が難しいとき、所定労働時間だけ働いたものとみなす制度です。
B.専門業務型・・一定の専門的な業務に従事する社員さんは、あらかじめ労使で決めた時間だけ働いたものとみなす制度です。専門的な業務とは、新商品や新技術の研究開発、システム設計、デザイナー、編集者、建築士、税理士、公認会計士などです。事務や営業など他の業務を兼務している社員さんは対象にはなりません。
C.企画業務型・・企画部や人事部等で経営に関する企画・立案・調査・分析業務を行う社員さんは、あらかじめ労使で決めた労働時間だけ働いたものとみなす制度です。少なくとも3~5年の職務経験があることが必要で、経験のない新卒社員さん等は対象となりません。
これらの労働時間制を導入するには、就業規則の整備や労使協定の作成等が必要となります。ご検討の際
は、当事務所へご相談ください
3.ホワイトカラー・エグゼンプションとは?
エグゼンプションとは「免除」の意味で、事務職や営業職等のホワイトカラーについては「自己責任」で「勤務時間」を自由に決められる制度です。一律に時間で労働を評価することが適当でない労働者の労働時間を自由にし、有能な人材の能力や時間を有効活用しようとするものです。労働時間に制限がないため、どれだけ会社にいても残業代は支払われません。アメリカやドイツ、イギリス等の先進国では様々な要件のもとで導入されています。アメリカでは①ホワイトカラー②年収③職務の3つの要件のもと管理職や専門職等に導入されています。
知っておきたい問題社員の対処法 (2013年9月15日)

1.問題社員とは・・・
社員を大切にすることは企業経営にとって大切なことです。しかしミスが多い、
仕事が遅い、注意をしてもミスを認めず言い訳ばかり、上司に反発する等の問題
社員が会社にいると、人件費の無駄遣いだけでなく、業務に支障をきたします。
また、他の社員のモチベーションも下がります。ひいては会社の経営にも悪影響です。会社と しては問題社員は放置してはなりません。排除(解雇)も考え、毅然と対応する必要があります。
2.解雇規制
では、問題社員はすぐに解雇できるのでしょうか?会社の解雇権は大幅に規制されています。我が国の労働法は従来からの終身雇用的な考えで、労働者側に有利です。社会常識的に当然解雇できると思われる場合でも、裁判をすれば会社が負けてしまうことが多々あります。裁判所は 「いったん採用した以上、ダメな社員でもしっかり教育すべき」「仕事を変えてでも最後まで 面倒を見るべき」という考え方です。
そのため、会社としては解雇前に問題社員の「問題点」をきっちりつかんだ上で、それを改善するための十分な努力をする必要があります。その努力をしてもダメであったというほうが解雇も認められやすいのです。裁判で敗訴すれば多額の費用がかかるうえ、解雇を撤回する必要が あり、本人が会社に戻ってくるのです。また裁判中の精神的苦痛も大変なものです。
3.解雇までのプロセスとポイント
☆問題社員に対処するためには以下のポイントを熟知して、しっかり対応する必要があります。
a. 本人に問題点を具体的に指摘する・・「態度が悪い」等の抽象的な主張では全く意味をもちません。相手から「問題ない」と反論され、「問題ある」、「問題ない」との水掛け論になるだけです。何月何日何時にどこで、どのような問題行動・発言があり、どのように改善すべきかを 具体的に指導していく必要があります。
b. 本人を昇格や昇給、表彰等をしない・・会社によっては問題社員に安易に昇格昇給、 表彰等をしてしまっている場合があります。このことは「問題があれば昇給等されるはずがない」という理屈で、裁判上大変不利です。
c. 本人を再教育する・・ある程度習熟が必要な業務では、教育も大切です。「できないのは教育をきちんと受けていないからだ」という考え方です。「そんなこといってもあいつが素直に教育を受けるはずがない」と考えず、受けなかった場合は「反発して教育を受けなかった」と記録します。
d. 本人の配置転換や職種変更をする・・「違う仕事なら大丈夫では・・」「特定の上司と折り合いが悪かっただけでは・・」など、会社はまだやるべきことをやっていない、改善の余地はまだある、として解雇が無効になる可能性が出てきます。
e. 本人による取引先等の苦情等実害をみる・・問題社員の問題行動により、金銭的損害が 出たり、取引先から苦情があったことは重要な事情です。いつ、 どのような苦情があったのか、具体的に記録しておきます
4.書面や記録の重要性
通常、問題社員は会社の主張する「問題行動」に対して、「そんなことはない」と全面否認 します。言った言わないの話になれば、結局は水掛け論です。裁判となった場合「問題がある」ことの証明義務は会社にあるため、会社が立証できなければ、会社が敗訴します。
そのためには、何らかの資料(メモやメール等、正式な物でなくてもよい)が絶対必要です。 書類にサインしない場合や受け取らない場合には、上司へのメールや報告書にその旨を記入し
、送信記録等として残しておく必要があります。
「過重労働(長時間労働)と会社のリスク」 (2013年7月15日)

過重労働(長時間労働)と聞くとまず最初に思い浮かべるのはいわゆるサービス残業(未払い残業)ですが、残業代を払っていればいくらでも長時間労働させて良いわけではありません。過重労働に起因する労災が発生すると会社の安全配慮義務違反や不法行為責任が問われることもあり注意が必要です。
1.過重労働とは?
過重労働(長時間労働)を考えるうえで重要な数字があります。それは「45」「60」「80」「100」です。残業を命じるためには労使協定(36協定)を結び、1日、1ヶ月、1年間に何時間まで残業をするのかを事前に定めておく必要があります。「45」とは、国が定めた1ヶ月間の残業時間の限度基準で、月45時間以上の残業があると健康障害のリスクが高まると言われています。「60」時間を超える残業については50%の割増賃金(60時間までは25%)を支払わなければなりません(当分の間、中小企業については猶予期間あり)。また「80」とは2~6ヶ月平均で月80時間 以上の残業、「100」とは1ヶ月でも100時間以上の残業があれば健康障害のリスクが非常に高 まるとされている基準です。
2.過重労働による発症リスク
月80時間の残業があると、生理的に必要な睡眠時間を確保できないといわれています。そのような状態では脳梗塞、くも膜下出血、心筋梗塞などの脳疾患、 心臓疾患を発症する恐れがあり、また近年うつ病等の一因ともなっています。
3.安全配慮義務
労働契約法では会社に「労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮」をするよう定められています。これが会社の安全配慮義務といわれるものです。 もともとは安全配慮義務とは、工場や建設現場などで労災事故が起きないように会社が安全・快適に仕事ができるための職場環境や設備を整える義務を負って いるという考え方ですが、長時間労働をしないように配慮することや、健康診断で異常があった従業員さんの勤務を見直すことなども安全配慮義務ととらえ られています。
4.労災請求と損害賠償リスク
長時間労働を放置し、その結果従業員さんが病気にかかれば、安全配慮義務を怠っていたとみなされ、本人や家族から会社の責任を問われる恐れがあります。会社の責任とは「民事上の賠償責任」です。業務上災害の場合、通常は労災請求をするのですが、長時間労働が原因で発症し労災認定されると安全配慮義務違反が疑われ、会社の責任を追及されることが充分考えられます。労災は結構手厚い給付となっていますがそれでも休業補償は賃金の80%補償なので完全には カバーしきれず、労災給付以外の部分については会社に損害賠償請求をされることも充分に考えられます。また、労災認定が下りなかったからといって会社の安全配慮義務や不法行為責任が 免れるわけではなく、損害賠償請求リスクについても消えることはありません。
5.過重労働にならないために
中小企業では個人の力に頼る部分が多いため仕事ができる人に業務が集中したり、大企業とは違って個別対応の業務も多く長時間労働になりがちです。そこで、労務管理と仕事のやり方の工夫で、いかに売り上げ(生産性)を落とすことなく残業を減らすかが大事になってきます。ある大企業では「がんばるタイム」と名付けてダラダラしがちな仕事を集中してする方法を実践しています。
○がんばるタイム…1日のうち2時間等一定時間は自分の仕事だけに集中する時間と決め、コピー・電話・会話・席を立って歩く、部下への指示や上司への確認などは全て禁止。一気に仕事を処理する時間を確保でき、また必然的に会議や外出、来客対応はそれ以外の時間に済まさなければならないので、仕事のスケジュール化、効率化の工夫をするようになるというメリットがある。もともと資生堂で実施していたのを下着メーカーのトリンプが取り入れて業績を上げたことから有名になった制度。
他に、変形労働時間制の導入などにより適切な労働時間管理をすることで残業時間を減らすことができます。御社に合った労働時間の設計をご提案させて頂きますので、ぜひご相談ください。
従業員さんの健康診断について! (2013年5月15日)

1.健康診断とは・・・
最近の過労死・過労自殺、うつ病等の急増により、会社の従業員さんに対する健康管理責任が増大しています。健康管理を怠ると、従業員さんが会社に責任を問い損害賠償請求してくるリスクがあります。「従業員さんの健康状態を知らなかった。」では済まされない時代なのです。会社は雇用契約を結んだ時点で、その従業員さんに対して健康管理責任と安全配慮義務を負うことになります。(業務に原因のある病気だけでなく、持病に対しても会社が健康管理責任と安全配慮義務を負う場合があります。)少なくとも法律で定められた健康診断は確実に実施して、従業員さんの健康状態を把握し、「業務にとって異常がある」と診断された従業員さんについては、医師と相談の上、適切な対応をとることが大切です。
2.パートの健康診断・・・
パートさんであっても、①1年以上雇用していて②1週間の所定労働時間が30時間以上又は正社員の3/4以上であるというパートさんには健康診断が義務づけられています。
<*受診義務のないパートさんに健康診断を行うと、法定以上の福利厚生を実施したということで、助成金がもらえる場合があります。>
3.種類は?
①雇入れ時…採用時に実施する健康診断です。採用してすぐか、採用前3ヶ月の間に
実施します。ただし、入社前3ヶ月以内に受けている場合は実施する必要が
ありませんので、その時の結果を提出してもらいましょう。
②定期…1年に1回、定期的に実施する健康診断です。法律で定められている検査項目は意外と少なく、以下の項目で十分です。問診、身長・体重等、視力、聴力、X線、尿、心電図、血圧測定、血液検査の項目です。
③特定業務従事者…身体に悪影響がある業務(建設現場での振動業務、騒音業務など)や深夜業務(午後10時~午前5時の業務)を行う従業員さんに対し、6ヶ月に1回実施する健康診断です。
④海外派遣労働者…従業員さんを6ヶ月以上海外へ出張させるときや、6ヶ月以上海外へ出張していた従業員さんが帰国したときに実施する健康診断です。
⑤給食従事者の検便…飲食店や社員食堂において給食業務を行う従業員さんに対して、採用または配置転換の際に実施する健康診断です。
⑤その他…有機溶剤などの有害物を取り扱う業務には特殊健康診断があります。特に、ジクロルベンジジンや石綿などの発がん性物質を扱う業務は、症状が表面化するまでの時間が長いので、配置転換を行ってその業務を離れた後も特殊健康診断を実施する必要があります。この他、歯に悪影響がある塩酸・硫酸などを扱う業務には歯科医師による健康診断などがあります。
4.費用は会社負担?
費用については、法律上明文化されていませんが、会社に健康診断の実施義務があることから、原則として会社が負担します。ただし、会社が指定する健康診断を受診せず、従業員さんが選んだ病院で受けた健康診断は、費用を会社が負担する必要はないとされています。また、再検査が必要となった場合の費用について、業務に原因がない場合は会社が負担する必要はないとされています。
5.健康診断の時間は労働時間?
健康診断の時間は原則として労働時間に含まれません。健康診断の時間を有給とするか無給とするかは、会社が自由に決めることができます。しかし、有害物を取り扱う業務の特殊健康診断の時間については、業務との関連が深いことから労働時間に含まれると考えられるため、その時間も賃金を支払わなければなりません。
6.その他注意点は?
会社は健康診断の結果について、従業員さんに通知することや5年間保管することが必要です。また、会社全体で常時50人以上の従業員さんがいる会社は、結果について「健康診断結果報告書」を作成して、労働基準監督署に提出することが必要です。
従業員さんの入退社で押さえておきたいポイント (2013年3月15日)

春は出会いと別れの季節。企業においても、1年でいちばん入退社が多い時期と言えます。 決算や異動時期とも重なることが多いため、バタバタと退職者を送りだし、気がつけば新入社員を迎える時期に!となってしまいがちですが、忙しいときでも、入退社でしっかりポイントを 押さえておかなければ、後でトラブルが起きやすくなります。この機会にぜひ一度見直してみましょう。
1.入社編
~労働条件の通知~ 会社が従業員を雇う場合、最初に勤務条件を示す必要があります。 特に契約期間、勤務の場所・時間、休み、給与、退職に関する事項等 は書面での明示が義務づけられており、違反すると罰則もあります。 これらの内容は「労働条件通知書」として会社から従業員へ渡すだけ でもよいのですが、雇用=労働契約です。つまり、雇用とは従業員が会社に労働力を提供し、その対価として会社が従業員へ給与を払うと いう契約を結ぶことです。単なる通知書で済ませるより「雇用契約書」という形で労働条件を記載し、双方記名押印の上、残しておくべきでしょう。また、期間雇用の方は、更新の有無やその条件、パート等の方は、昇給・賞与・退職金の有無についても書面での明示が必要ですので、ご注意ください。
~入社時に提出してもらう書類~ 入社時には、住民票や資格の証明書など一定の書類の提出を求めていることと思いますが、次の大事な書類を忘れてはいませんか?
①誓 約 書・・・従業員として当然守るべき事項を示し、それらの遵守を約束させる書類。「会社の規程を守って指揮命令に従います」「会社に損害を与えた場合は、賠償します」などの内容が一般的で、従業員としての自覚を促す意味合いが強い。
②身元保証書・・・従業員が会社に損害を与えた場合、身元保証人が本人と一緒に損害賠償 責任を負うことを示す書類。実際に損害賠償してもらえるように、という本来の意味合いもあるが、「何か悪いことをすれば保証人に迷惑がかかる」という心理的な不正抑止効果も期待できる。
③パスポート(外国人の場合)・・・就労資格があるか?仕事に合った就労資格をもっているか?必ず確認が必要。資格がない人を働かせた場合、不法就労に荷担したということで、会社も罰せられる可能性があり、要注意。就労資格については、パスポート(H24.7~在留カード)に記載されており、「人文知識・国際業務」などが一般的。
2.退職編
~退職時に提出してもらう書類~ 何事も終わりが肝心。こちらの書類もお忘れなく。
①退 職 届・・・退職の意思表示は口頭でもOKだが、退職理由や退職日などの後日トラブルは非常に多い。自己都合の退職者が、後から〝辞めさせられた“など主張 した場合でも、自筆の退職届をとっていれば有用な証拠書類となる。パート・アルバイトの場合も同じであり、退職届はとっておくべき。
②秘密保持誓約書・・・退職したからと言って、ペラペラと企業秘密やお客様情報を洩らされては困る。「退職後も、業務中に知り得た機密情報を第三者に漏らしません」といった内容で誓約させる。昨今は、個人情報漏洩で賠償責任を問われることも多く、情報の管理意識をもたせるためにも、書いてもらう方がよい書類。
③競業避止義務誓約書・・・競業避止義務とは、現在の会社と競合する同業他社に就職したり、自らその事業を行ったりすることによって、会社に損害を与えてはならないという義務のこと。退職後は職業選択の自由があるが、誓約書をとっていれば、争いになった場合でも、競業避止義務の存在について合理的な範囲で対抗できる。
また、これらの書類にサインをさせることも重要ですが、その意味や「してはいけないこと」の従業員さんへの意識づけが、もっと重要です。秘密保持や競業避止義務などは就業規則へも記載し、日ごろから従業員さんへ周知しておくようにしましょう。
*就業規則への記載、各種書式については当事務所までご相談ください。
労働時間の適正管理のポイント (2013年1月15日)

1.労働時間とは?
労働基準法では労働時間について1日8時間、1週40時間までと決められています(法定労働時間)。その時間を超えると残業となり割増賃金を支払うこととなっています。では、労働時間とはどのような時間のことをいうのでしょうか?判例によると『労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれて労働している時間』とされていますが、その解釈は非常に曖昧です。
2.労働時間の範囲とは?
それでは、会社にいる時間はすべて労働時間でしょうか?一般に、着替え時間や自由参加のミーティング等は労働時間とはならないとされています。ただし、就業規則等で義務付けられた作業着への着替えや、強制参加のミーティング、会社が黙認した自発的残業や、残業しないと明らかに業務が終わらないほどの業務量があった場合は労働時間とみなされますので要注意です。また、作業準備や後片付けの時間は通常労働時間となるほか、泊まり勤務中の『仮眠時間』も電話や呼び出しに応じる義務を課している場合は労働時間となることがあります。一方、定期健康診断(特殊健康診断を除く)や出張の往復時間、組合活動等は労働時間に入れる必要はありません。
3.労働時間の適正管理とは?
会社には労働時間を管理する義務があります。厚生労働省の通達によると「使用者は、労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録」することとされ、原則として、①使用者が自ら現認し記録又は②タイムカードやICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録することとされています。やむをえず自己申告制によらざるをえない場合は、適正に自己申告を行わせるようにと定められています。よって必ずしもタイムカードの使用が義務付けられているわけではなく、タイムカードを使うにしても、イコール労働時間とはとらえず、労働時間を把握するためのツールの一つとして活用し、残業する場合は残業申請書を併用するなど『実労働時間』をきっちり把握・管理することが適正管理のポイントです。
4.いつからいつまでが労働時間?
労働時間は『業務開始から終了までの時間から休憩時間を引いた実働時間』という考え方です。ところが、タイムカードを使っている場合、ともすれば『出社時刻=業務開始時刻、退勤時刻=業務終了時刻』となりかねないという問題が発生します。朝早く出社してきて始業前まで新聞やインターネットサイトを見ていたり、本来の退勤時刻に自分の業務が終わっていても他の人を待つために今する必要のない仕事をしている時間等、残業時間と考えたくない場合があります。しかしタイムカード上は『労働時間』として記録が残ってしまいます。このままでは、そのときは労働時間ではないことが分かっていても、半年後そのタイムカードを見たらきっと全部労働時間だと思ってしまうでしょう。いつからいつまでが労働時間かを把握・管理することが大事になってきます。
5.運用するためのポイントは?
労働時間を適正に管理するためには、従業員特に管理職社員への意識づけが大切です。次のようなルールを取決め、就業規則等に明記したうえで、運用させるようにします。
・タイムカードは、出社・退勤時刻ではなく、業務開始・終了時に打刻させる。
・業務が終われば速やかに退勤させる。終業後、用もなく職場に留まることを禁止する。
・勤務中の電話、メール、パソコンの私的利用を禁止する。
・どうしても残業する必要がある場合は残業申請書を提出のうえ許可制とする。
・部下は労働時間の長さではなく、実績で評価する。
・残業を黙認しない。黙認した管理職社員には人事考課でのマイナス評価や制裁も辞さない。
定年後の再雇用に関するポイント (2012年11月15日)

高齢者雇用安定法の改正に伴い、来春以降に60歳定年を迎える方については、当面“希望者全員を61歳まで(将来は65歳まで)再雇用"が企業の義務となります。今までのように会社選定の考え方で再雇用の対象者を選べなくなりますが、再雇用後の労働条件について法律の規定はなく、実状に合わせて変更可能です。例えば時間や日数が少ないパートさんとして再雇用でも実状に合っていれば構わないでしょう。最も気になる再雇用後の給与水準についても、職務内容が変わるのであれば職務の重要性によって変更されることは十分合理的と考えられます。
再雇用後も従来の給与を維持してあげられればいいのですが、様々な要素からそうもいかず、やむを得ず給与を下げる場合もあるでしょう。そんなときでも従業員さんの
収入をあまり減らさずに済む裏ワザがあるのはご存じですか?
1.60歳以降の契約内容を決める前に知っておきたいこと
◆ 高年齢雇用継続給付(雇用保険)について
給与見直しの際、ぜひ活用したいのが「高年齢雇用継続給付」~60歳時点と比べて75%未満まで給与を下げた場合に、その補填として国から従業員さんへ毎月支給されます。65歳までの期間限定で、金額は最高 各月の給与額の15% です。
※ただし、受給には5年以上雇用保険に加入していたこと等、一定の要件があります。
※社会保険加入者がこの給付を受けた場合、在職老齢年金とは別に年金額が一部カットされます。
◆ 在職老齢年金の制度について
もうひとつ忘れてはいけないのが「在職老齢年金」~60歳以降も働く人について、給与が 多ければ多いほど年金がカットされる(少なければカットされない)仕組みです。
⇒ 大体、賞与込み給与+年金月額 が28万円(65歳以降46万円)を超えるとカットされます。
◆ 労働時間の見直しと各保険の加入要件
労働時間を減らす場合、所定労働時間(日数)と保険加入との関係は次のとおりです。
雇用保険 社会保険
週20H以上は加入要 日数・時間の両方が正社員の約3/4以上の場合は加入要
※社会保険に加入しない場合は、「在職老齢年金」の制度は適用されず、年金は一切カットされません。
※雇用保険に加入しない場合は、「高年齢雇用継続給付」を受けることはできません。
2.60歳以降の賃金設計について
◆ 給与額と本人の手取りは比例しない!?
上記の仕組みをうまく活用すれば、給与を下げざるを得ない時でも、従業員さんの手取りは さほど減らない、ということが実現できます。
(例)Aさん…S28.5月生まれ女性(60歳時の給与40万・賞与なし/年金月額10万)
給与額 40万円 35万円 30万円 24.5万円
年金額 ― 10,000 40,000 55,600
高年齢雇用継続給付 ― 0 0 35,941
(社会保険料) ▲60,170 ▲52,827 ▲44,064 ▲35,276
(所得税) ▲11,370 ▲8,080 ▲6,610
▲5,020
本人手取計 328,460 299,093 289,326 296,245
給与低下額 ― ▲50,000 ▲100,000 ▲155,000
手取低下額 ― ▲29,367 ▲39,134 ▲32,215
会社の人件費低下額 ― ▲57,343 ▲116,106 ▲179,894
Aさんの場合、給与35万円と24.5万円の時では手取りはほぼ同じ。30万円の時に至っては、24.5万円の時よりも手取りが減ります。給与の下げ幅を大きくした方が、本人さんにとって 得な場合もあるため、注意が必要です。また、給与を下げた場合、当然会社の人件費(給与+社会保険料)も減ります。24.5万円にした場合では、本人の手取りは40万の時と比べて3.2万円減なのに対し、人件費は約18万円も減少します。
3.その他のポイント
◆ すぐに社会保険料を下げられる特例がある!
給与が大きく下がっても、社会保険料変更は通常3ヶ月後ですが、65歳迄の年金受給者に限り、喪失届・取得届の同時提出ですぐに保険料を下げられます。(改定前と後の雇用契約書要)
◆ 就業規則に記載する
年金額がわからなければ、上のような比較検討はできません。本人さんに話がしやすいよう、60歳以降の給与は年金額を本人から聴取の上決定する旨、就業規則などに記載するのも手です。また、給与の見直し(減)にあたり、職務や勤務形態の変更も伴うことと思います。該当者が多い会社様では、正社員との違い等を記載した嘱託規程の整備も併せてお勧めします。
パート、アルバイト、契約社員、派遣社員等の非正規労働者と正社員との均等待遇を目的として労働者派遣法、労働契約法が改正されました。また、年金受給年齢の引き上げに伴い定年後の継続雇用を義務化するため高齢者雇用安定法の改正も行われました。
労働者派遣法 (2012年9月15日)

①日雇い派遣の原則禁止(H24年10月~)
日雇い派遣とは日々または30日以内の雇用契約による派遣をいい、一部の例外を除いて禁止されることとなりました。
例外業務(日雇い派遣OK) 例外となる人(日雇い派遣OK)
ソフトウェア開発・事務用機器操作・ファイリングその他全18業務 ①60歳以上の人②昼間学生③副業として日雇い派遣をする人(但し本業収入500万円以上)④主たる生計者でない人(但し世帯収入500万円以上)
②労働契約申し込みみなし制度の創設(3年後のH27年10月~)
派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなされ、派遣先が直接雇用しなければならなくなります。
違法派遣の例・・・派遣許可(届出)のない会社からの派遣。派遣可能期間(職種により1年、3年など)を超えた派遣。偽装請負など。
①無期雇用への転換(来年中に施行予定)
更新を繰り返して長期間(通算5年超)働く契約社員さんが希望すると、期間の定めのない雇用に変えなければならないようになります。特別な手続きを経なくても、本人が希望すれば会社は認めたことになり、次回の契約更新時から期間の定めがなくなります。ただし給与や職務などの労働条件を他の正社員並みにする必要はなく、あくまで契約社員だった時の労働条件はそのままで良いので雇用期間の定めをなくしてください、という考え方です。なお通算5年をカウントするのは法律施行以後に開始する雇用契約からとなっており、今までの勤続年数は入りません。
②「雇止めルール」の法定化(H24年8月~)
期間雇用の場合、会社から「更新しません」と言えば契約期間満了により退職となります(雇止め)。雇止めそのものは会社に認められる権利ですが、このたびルールが正式に法律として規定され、雇止めできずに引き続き雇用しなければならない場合がでてきました。
引き続き雇用しなければならない場合とは・・・?
a)実質的に無期契約とみなされる契約
例えば・・・複数回更新され、更新手続き自体が形骸化しているなど
b)更新を期待することについて合理的な理由があると認められる契約
例えば・・・雇用継続を期待させるような言動があった
ほとんど全ての人が繰り返し更新されているなど
このような契約で、会社が雇止めしようと思っていても本人から更新したいと言ってきたら雇止めは認められません。本人が事前に更新したいと言っていなくても、会社が「更新しません」と伝えたときに本人が「嫌です」というなど何らかの反対の意思表示をすれば、それをもって更新の申し出があったとみなされます。トラブル防止のためには、採用・契約更新の時点で次の更新の有無や更新条件をきちんと説明しておくことが大事で、雇用契約書の重要性は今まで以上に高まってきます。
希望者全員の定年後の継続雇用を義務化(来年4月~)
現在、法律上の定年は60歳で、希望者については64歳まで
継続雇用(再雇用)しなければならないとされています。ただし、
労使協定で基準を設けることで勤務成績等により継続雇用の対象
者を会社が選ぶことが認められています。来年4月からはこのル
ールが段階的に廃止されることになり本人が希望すれば一部の例
外を除いて継続雇用が義務となります。
60歳以上の方の仕事内容や賃金制度の検討、嘱託規程の整備等を進めておくことが大事です。
育児・介護休業法の改正と出産育児手続の実務 (2012年7月15日)

1.「育児・介護休業法」の改正ポイント
少子化対策の一環も含め、子供や老親をもった従業員さんが仕事もしやすくなるよう、
平成21年に「育児・介護休業法」が改正されました。従業員100人以下の会社では、
これまで一部の適用が猶予されていましたが、今年7月1日からは全ての会社が対象に。
主 な 制 度 改 正 概 要
① 短時間勤務制度 □育□介
(減った時間は無給でOK) 3歳までの子を育てる従業員に対し、1日の所定を原則6時間に短縮する制度を作らなければならない。(家族を介護する従業員も同様)
② 所定時間外労働の制限 □育
3歳までの子を育てる従業員が申し出た場合、会社は残業をさせては ならない。
③ 介護休暇制度 □介
(無給でOK) 家族を介護する従業員が申し出た場合、年間5日(対象の家族が複数の場合は10日)を上限として休みを与えなければならない。
④ 子の看護休暇制度の拡充 □育
(無給でOK) 小学校入学前の子の看護のために従業員が申し出た場合、年間5日(子が複数の場合は10日)を上限として休みを与えなければならない。
⑤ 父親の子育て参加促進 □育
・両親ともに育児休業を取得する場合、最長1歳2か月まで育児休業を認めなければならない。(原則は1歳まで)
・子の出生直後に育休をとった父親に対して、再度の育児休業を認めなければならない。(原則、育休は1回限り)
・以前は、条件つきで、専業主婦の妻(夫)を持つ夫(妻)からの育児休業を拒否できたが、それが不可になった。
2.出産育児手続の実務
「従業員がオメデタやけど、どんな手続・給付があるの?」という社長さん必見!
【出産育児一時金(健康保険)】出産1児につき42万円が支給されます。原則*直接払の ため、出産費用の立替は不要。42万円超の場合は差額を病院で支払い、42万円未満の場合
は申請すれば本人へ差額が支給されます。 *直接払制度…けんぽ協会から病院へ直接払われる制度
【出産手当金(健康保険)】産前産後休業の98日間、給与の約2/3が本人へ支給されます。
通常、産前42日から産後56日までの間、産前産後休業をとれます。この間、会社から給与が出ない代わりに、出産手当金が支給されます。 → 会社が給与を支払うと、逆に出産手当金が減額されてしまいます。
【育児休業給付金(雇用保険)】育児休業期間中、給与の約50%が本人へ支給されます。産前
産後休業が明けると、今度は育児休業に入ります。この間の給付が育児休業給付金。育児 休業、給付とも通常1歳までですが、保育所に入れない場合等は1歳6ヶ月までの延長もあります。
【社会保険料の免除(健康保険・厚生年金)】育児休業期間中は、申請すれば、会社/本人負担とも社会保険料が全額免除となります。
【育児休業終了後の保険料改定(健康保険・厚生年金)】育児休業復帰後、残業減や時間短縮で給与が下がるのはよくある話。そんな時は育児休業終了時の月額変更を。通常の月額変更と違い、
固定給が下がらなくても(残業代減だけでも)、1等級downでも、保険料を下げることができます。
【年金計算のみなし特例(厚生年金)】前述のように給与が減り、等級も下がった場合、本来
ならば将来の年金も下がった等級を元に計算され、減ってしまいます。それを防ぐのが厚生年金の標準報酬みなし特例。子供が3歳になるまでは、休業前の高い等級をもとに将来の年金を計算してくれます。(保険料は安くでき、将来の年金は目減りするのを防げる秘策)
自転車通勤のリスク管理とは (2012年5月15日)

御社の従業員さんはどのような手段で通勤されていますか?一番多いのは電車だと思いますが、手軽で便利な通勤手段として自転車を利用している人もおられると思います。一方で自転車通勤には「事故」のリスクが潜んでおり、その回避方法を考えておく必要があります。
1.通勤途上の事故
≪被害者のケース≫通勤中の事故は原則として労災(通勤災害)の対象となります。しかし、自転車通勤の場合は行動の自由度が高いため途中で寄り道をしたり(通勤経路の逸脱)、通常は自転車通勤をしないような距離から自転車通勤をしていた場合(「合理的な経路及び方法」とは認められない)は労災がきかないことがあります。また、必ず警察に届け出て交通事故証明書を発行してもらうことも忘れないようにしましょう。なお、物損事故扱いだと自賠責保険の請求や、労災による治療が受けられません。人身事故扱いで発行してもらうようにしましょう。
≪加害者のケース≫スポーツタイプの自転車の場合時速50~60kmも出ることがあるそうです。ところが、自動車やバイクの自賠責保険のような公的な強制保険がありません。通勤は原則として会社の業務とは別個であり個人の責任において行われるものですが、従業員さんが加害者となった場合に本人に賠償能力がなければ会社が責任を追及される可能性が出てきます。保険に加入しなければ自転車通勤を認めないというルールを作っておきましょう。
2.通勤手当の支給
自転車通勤を認める場合、通勤手当の検討も必要です。基本的に通勤に実費はかかりませんが、買い替えやタイヤ等の消耗品、前出の保険加入などの費用、また雨の日には電車等で通勤する必要があることからこれに見合う金額を支給することが望ましいです。金額は所得税の非課税限度額を参考にするのが実務的です。
3.自転車通勤は許可制に
マイカーやバイク通勤は許可制にしている会社さんが多いと思います。同様に自転車通勤も許可制とするべきです。自転車通勤許可申請書兼誓約書を提出してもらい、許可要件を満たせば自転車通勤を認めます。許可要件としては①自宅から会社までが自転車での通勤可能距離であること(通常の自転車で時速15~20kmのため、1時間以内で通勤できる距離として15~20km程度までが妥当)②ライト、ベル等がきちんと付いているなど安全が確認できる自転車であること③自転車保険に加入していること、等があげられます。そのうえで自転車通勤規程を作るか、就業規則やマイカー通勤規程などに自転車通勤にかかる規定を追加しておくと万全でしょう。
役所の調査あれこれ (2012年3月15日)

雇用の関係で“役所の調査"と聞くと、労働基準監督署の調査が真っ先に浮か
びますが、その他にも年金事務所やハローワークの調査など、色々あります。
今回は、ここ数年増え続けているこれらの調査についてクローズアップします。
労働基準監督署の調査(注意度:★★★★☆)
労働基準法について違反がないかを調べるのが一般的ですが、大きな労災事故があった場合など、安全衛生面の確認や指導が目的で行われることもあります。通常、1~2名の監督官が会社へやってきての実地調査で、事前に連絡がなく、突然やって来る場合もあります。(臨検)
ハローワークの調査(注意度:★★☆☆☆)
ハローワークでも「労働保険料算定基礎調査」というものがあります。こちらの目的は、主に①過去2年度分の労働保険料の申告は適切か?というものですが、同時に②雇用保険の加入もれはないか?③継続一括(労災の支店登録)もれはないか?なども確認されます。なお、保険料の申告に誤りがあった場合は、10%の追徴金も含めて差額の支払いが必要となります。
年金事務所の調査
社会保険関係の調査は最近特に多く、4年間で全事業所一巡のペースで行われています。
①算定基礎届の調査(注意度:★★★☆☆)
毎年7月に提出する算定基礎届。4~6月に支払った給与の平均で社会保険の等級を見直します。この書類が送られて来る際に「算定基礎届の定時決定時調査について」という日時指定の呼び出し状と○調のスタンプが押された算定基礎届が入っていたら、調査対象の印です。
算定基礎届に誤りがないか重点的に確認するのはもちろんですが、全員分の出勤簿・賃金台帳等を持参するよう指示があり、社会保険の加入漏れ等がないかも併せてチェックされます。
②総合調査(注意度:★★★★☆)
こちらも呼び出し状が会社に届き、指定された日時に年金事務所で行われます。通年実施され、事業所はランダム抽出の他、関係者からの申告に基づき行われる場合もあります。
会計検査院の調査(注意度:★★★★★!!!)
会計検査院は行政の監査機関、つまり役所がきちんと仕事をしているかチェックする機関です。調査対象は給付・助成金(不正受給がないか)から社会保険まで多岐にわたります。
特に、会計検査院による社会保険の調査は非常にシビアであり、注意が必要です。管轄の年金事務所で行われ、持参書類やチェックポイントなど年金事務所の総合調査とほぼ同じですが、所要時間は2時間以上…加入もれが見つかると、問答無用で時効2年分遡って加入させられ、数百万円の社会保険料を徴収されるケースも少なくありません。
雇用均等室や需給調整課の調査(注意度:内容により異なる)
上記のほか、最近は労働局雇用均等室から、育児・介護休業法に関する事項、パート労働法に関する事項の調査などもあります。また、派遣会社や派遣を受け入れている会社には、適正な派遣が行われているかどうか、同じく労働局需給調整課の調査もあります。
外国人を雇う時に知っておきたいこと
年々国際化が進む現在でも外国人の会社への雇入れについて、我が国は他の先進国と比べ、いわゆる「純潔主義」の立場を崩していません。すなわち原則として労働市場には外国人は受け入れない。例外として我が国に有益な労働者のみ受け入れるという方針です。そのため単純労働者、肉体労働者として雇用することは原則認められません。しかし外国人労働者は実態として、安く雇えることや職種の好き嫌いなく雇えることから増加の一途でそのため彼等をめぐるトラブルも増えています。
外国人を雇う前に確認すること
外国人を採用する場合にまず確かめる必要があるのはその人が現在、自社にとって適切な在留資格(俗に言うビザ)を持っているかということです。在留資格を持ってない人や違う種類の在留資格の人また期限が切れている人を雇った場合は会社も罰せられます。これらのことは本人のパスポートを見せてもらうことにより確認できます。パスポートには在留資格の種類と期限が記入されたシールが貼ってあります。また、外国人登録証でも可能ですがパスポートの方が確実です。(外国人登録証は本人がする手続きで、未手続の場合情報が古いため)
働くことができる在留資格とは?
働くことができる在留資格は以下の通りです。
①身分関係のビザの場合
~「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」「永住者」、「定住者」等
これらの在留資格は仕事内容や時間の制限が全くないのでそのまま問題なく雇用できます。ただし「永住者」以外は期限があります。
②就労ビザを持っている場合~「人文知識・国際業務」、「技術」、「技能」、等
これらの在留資格の注意点は、本人が持っている在留資格や経歴と、会社で行う職務内容が合っているかということです。例えば「国際業務」のビザは会社で外国人本人の語学力を活用した翻訳や通訳等の仕事を行う必要があり、「技能」のビザは外国料理のコックさん等の技能的な仕事をしなければなりません。会社での仕事と在留資格が本当に合致しているかの確認は、本人から「就労資格証明書」を取っておけば安心です。
③その他のビザを持っている場合~「留学」、「家族滞在」、「文化活動」等
これらの資格は、フルタイムでは働けません。本人が「資格外活動許可」を取っていればその時間内で、アルバイトやパートタイマーとして雇うことができます。(概ね週28時間程度)、また我が国の大学等を卒業した外国人を新卒採用する場合は、卒業する数か月前から就労可能な在留資格へ変更する必要があります。
在留管理制度が変わります!
法律が改正され今年の7月から新しい制度が導入されます。従来の外国人登録証が廃止され「在留カード」となり、資格や期限の確認はこれで一元管理できるようになります。(パスポートを見なくてもよくなる)また従来外国人は別扱い(外国人登録原票)だった住民票も、日本人と同様に外国人も住民票において、世帯ごとに編成されるようになります。そのため国際結婚の場合国籍の違う時でも、世帯全員が記載された住民票が発行できるようになります。届出先も従来の入国管理局から市役所等になり、大変便利になります。
会社において優れたリーダーとは? (2011年10月15日)

わが国の環境は急激に変化し続けています。こんな世の中で会社として生き残るため、今、リーダーの役割が特に重要になっており、強力なリーダーシップがあるかどうかが問われます。中でも最近の若い社員は七五三社員と呼ばれ、少しでも嫌なことがあると短期間で辞める人が増えているため、自分だけでなくチーム全体のモチベーションを盛り上げ、全体の社員レベルを向上させることができるリーダーが求められており、その存在は会社にとっても心強い存在となります。
会社にとって良いリーダーとは?
リーダーは会社の考えや目標を理解し、チームのメンバーに伝えなければなりません。社長が言ったことをそのままメンバーに伝言するのではなく、各人のレベルや興味に合わせてわかりやすく伝え、理解してもらったうえで、目標を達成し、会社の発展に貢献できる人が会社にとって良いリーダーといえます。
○目標をはっきりさせ、メンバーにもやりがいをださせる
○役割分担をはっきりさせ、個々の仕事を理解してもらう
○メンバーがレベルUPできるよう、指導・教育をする
リーダーはチームを引っ張る!
リーダーは自分の仕事はきちんとこなして当たり前。そのうえでメンバーの手本となり、チームを引っ張っていく役割が追加されます。いくら立派な事を言っても、実行力がなければメンバーは引っ張れません。1.大がかりな仕事2.難度の高い仕事3.前例のない仕事など手間のかかる仕事を率先して取り組む姿をみせることで、「自分もやらないと!」とメンバーに思わせることが大切です。
メンバーには達成感を!
目標を達成することで、メンバーは達成感を感じ仕事が楽しくなります。でも、メンバーが目標を目指し、努力しても「壁」は必ず出てきます。リーダーは、壁を乗り越えようと試行錯誤しているときに正しい方向に導く「きっかけ」をつくることが大切です。ただの「教える人」ではなく「コーチとしてサポートする人」になることにより、メンバーは達成感を得ることができます。
細かい部分まで手取り足取り説明するよりも、重要なポイントのみを教え、あとは自分で考えさせるようにすると、忘れにくく、応用が利くようになります。
リーダーに求めるものとは?
リーダーは自分の持つパワーの30%以上は会社の為に使わないといけません。
これまでの70%くらいのパワーで、いつもどおり自分の仕事をこなしつつ、さらに会社に対しても貢献していかないといけないものです。
また、何事も「チーム」で成果を上げることが期待されるようになるため、同僚やメンバーとも本気で関わっていくことが求められます。単なる「隣の席の先輩」なら仕事のアドバイスも適当にやっておけばいいのですが、リーダーになればメンバーの育成は「やるべき」仕事となります。
社長さん・役員さんと社会保険~常勤・非常勤~ (2011年8月25日)

【社会保険加入の原則】
すべての法人や従業員5人以上の個人事業(例外あり)で、
常勤(週30時間以上が目安)の人は、社会保険(健康保険&厚生年金)に
加入しなければなりません。
* パート、アルバイトなど呼び方は関係なく、上記の原則にあてはめて考えます。
* 原則に当てはまった場合は、会社や本人の意思に関わらず、加入しなければなりません。
【社長さんの加入】
しかし、代表取締役は非常勤でも社会保険に加入しなければなりません。(報酬がゼロの場合を除く) 一方、代表取締役以外の役員さんは、たとえ報酬が高くても、非常勤であれば社会保険に加入する必要はありません。逆に、常勤の役員さんは、どれだけ報酬が低くても、加入する必要があります。
* 非常勤役員とは・・・正社員の所定労働時間のおおむね3/4未満の時間しか就業していない役員。
【社長さんが2つの会社から報酬をもらっている場合】
①A社で代表取締役、B社で非常勤の取締役の場合 や ②A社で常勤の取締役、B社で非常勤の取締役の場合は、A社でのみ社会保険に加入すればよく、B社では社会保険加入不要、報酬も合算する必要はありません。
一方、③A社、B社の両方で代表取締役をしている場合 や ④A社で非常勤の代表取締役、B社で常勤の取締役をしている場合は、両社で社会保険に加入し、「2以上事業所勤務届」を出さなければなりません。保険料は報酬の合算額で計算されます。(A社50万、B社30万の報酬なら、計80万円分の保険料となる)
【役員さんと社会保険 】
中小企業では夫が代表取締役、妻が取締役で、それぞれ社会保険に加入しているケースをよく見かけます。しかし、妻を非常勤役員としておけば、本来、妻は社会保険にも加入する必要はありません。
☞ 仮に夫が100万円、妻が50万円の報酬をとっていたとして、これを夫が140万円、妻が10万円とし、さらに妻を非常勤役員とした場合はどうでしょうか。妻は夫の健康保険の扶養に入ることができ、国民年金も第3号被保険者(20歳以上60歳未満の場合)となるため、妻には社会保険料が一切かからなくなった上に、国民年金も納付した扱いとされます。
役員報酬社会保険料
(健保・厚年)
役員報酬社会保険料
(健保・厚年)
代表取締役(夫)100万円96,624円代表取締役
(夫)140万円107,618円
取締役
(妻:常勤)50万円64,045円取締役
(妻:非常勤)10万円なし
合計150万円160,669円合計150万円107,618円
60歳未満の人が健康保険の扶養に入る(配偶者の場合は同時に国民年金第3号被保険者になれる)ためには年収130万円未満でなければなりません。上の例にて妻の報酬を月10万にしたのはそのためです。
【年金受給者と社会保険】
60歳以上の年金受給者の場合は、非常勤役員という勤務形態はさらに効果的です。本来、社会保険に入っている人が給与をもらうと、給与との調整で年金額がカットされることがありますが、非常勤役員の場合は社会保険に入ることがないため、この調整がされなくなり、年金が満額受給できるようになります。
【メリットばかりではない非常勤】
①非常勤役員になった方は自分で保険(国民健康保険・国民年金等)をかける必要があります。扶養家族がいる場合、副収入がある場合など、会社にとってはコストダウンでも、本人さんにとっては保険料アップになる可能性もあります。また、②社会保険を抜けると、原則、傷病手当金・出産手当金などの一部の給付は受けられなくなります。③将来、本人さんの受けられる年金額は少なくなります。
知っておくべき給与支払のルール (2011年6月15日)

毎月支払われる給与、その額は最低賃金(最低賃金法)を下回らない限り自由に決められます。
ただし、支払方法については法律により細かく規制されています。これは昔からの人身売買的な方法
(労働者供給)と従業員との間に介在する者(親方等)によるピンハネ等の中間搾取を防ぐためです。
~賃金は、全額支払わなければなりません。
会社が勝手に罰金をとったり、何の説明もなく「研修費」などの名目で給与から差し引くことは禁止されています。
そのため、貸付金のある従業員が退職する場合でもいったん給与全額を渡してから、
改めて貸付金を返してもらうという手続きが必要です。
例外控除できるのは①法律で決まっている場合・・・税金・社会保険料等
②労使協定がある場合・・・購買代金・社宅費・社内積立・組合費・財形積立等
~賃金は直接、本人に支払わなければなりません。
給与を、仲介者や親方等の代理人に一括して支払ったりはできません。給与は必ず従業員本人に直接払う
必要があります。たとえ従業員本人にお金を貸している人がやってきてもダメです。無断欠勤で会社に来なく
なった従業員や、ろくに引き継ぎをしないまま辞めてしまった従業員に対して、最後の給与は会社に取りに
こさせるという活用も可能です。
~賃金は、通貨(日本円)で支払わなければなりません。
通貨(日本円)以外の支払は、正確に価値が評価されず従業員さんが不利になる為、外国通貨や小切手
で支払うことはできません。また、家電製品などを渡して給与の代わりにするような現物払いも禁止です。
※ ただし、従業員さんの同意を得て本人名義の銀行に振込みや労働協約で定めた場合、定期券など
を現物で支給することができます。
~賃金は、毎月1回以上一定期日に支払わなければなりません。
給与が不定期に支払われることになると、従業員の生活設計が困難になる可能性があります。
年俸制のスポーツ選手でも、実は給与を12等分したりして毎月支払われています。
また一定期日とは、「毎月25日」「月末日」とその日が特定されていなければなりません。
~地域別と産業別とで各都道府県ごとに定められています。
最低賃金は、法律により定められており正社員、パートタイマー、アルバイトを問わず全ての労働者に
適用されます。また、最低賃金未満の賃金は無効となりその労働契約は最低賃金と同じ額に引き上げた
ものとして取り扱われます。
地域別大阪779円最低賃金の計算一般的には、毎月の給与のうち基本給と諸手当を合計
東京821円したもので下記のもの(①~⑥)を除きます。
兵庫734円
奈良691円
和歌山684円
採用時、これだけは押さえておきましょう! (2011年4月15日)

会社には、採用の自由があります。現行の法律では労働者をいったん採用すれば解雇は困難(解雇権濫用の考え方)であり、企業に採用の自由があることはきわめて重要だからです。
≪採用の自由とは≫
★雇入れ人数決定の自由・・・何人雇うかの自由。
★募集方法の自由・・・どのような方法で雇うかの自由(紹介や縁故によるか、ハローワークなどに広く募集をかけるか)。
★選択の自由・・・いかなる者をどのような基準で雇うかの自由(学歴、経験、身体的能力など)。
★契約締結の自由・・・特定の者を雇わなくてよい自由
★調査の自由・・・採否の判断のために応募者の職業能力、技能、社員としての適格性等を調査する自由(除:応募者の人格権、プライバシー侵害)。幹部社員の採用に限りますが「思想・信条を調査し、本人からこれに関する事項の申告を求めることも違法ではない」との判例も出ています。
※男女差別の禁止(間接差別を含む)など、一部、採用の自由が制限される場合もあります。
いっぽう、従業員さんには「即時解除権」が認められています。即時解除権とは、
実際に就職してみたら「聞いていた労働条件と全く違っていた!」というときに
すぐに辞めることができる権利です。就業規則に「退職願は1ヶ月以上前に提出
すること」と決めていてもこの権利が優先します。また退職に伴い引越しをする
場合はその費用も負担しなければなりません。
● 採用内定とは・・
正社員等の採用の場合は、通常採用決定のあと入社前に「採用内定」を出し採用内定通知書を本人に送付します。採用内定の時点ではまだ雇用されたわけではありませんが、採用内定通知が届いた時点で会社が労働者からの求人の応募に対して「承諾」した。=「一定の条件付きの労働契約」(解約権留保付労働契約)が成立したとみなされます。
契約が成立している以上、理由のない一方的な内定取消はできません。しかし客観的な合理性や社会的相当性があれば認められるとされています。
● 試用期間とは・・
試用期間は、入社してから勤務態度・能力、担当業務への適性などを見極めて本採用するかどうかを決定する期間です。法律上、期間の長さについての制限はありませんが、3~6ヶ月程度とするのが一般的です。試用期間も同様に解約権留保付契約であるとされていて、本採用拒否や試用期間中の解雇については、正社員等より緩やかとしても、既に社内に入っているため内定の場合よりは厳しく判断されます。
解約権留保付労働契約とは、①会社が、採用決定後の調査や試用中の勤務状態等により当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実がその後わかり、②そのような事実から社員として雇用するのが適当でないと客観的に判断できる場合に解約(会社を辞めてもらう)できる契約です。つまり「その時にわからなかったが、その後わかった事実でわかった以上会社では客観的にみて雇用できない」という考え方です。
従業員の種類の定義付け (2011年2月15日)
○パートさん、嘱託さんとはどういう人をいうの?
最近会社の従業員さんには正社員の他にパートさんや、契約社員、嘱託社員、派遣社員と呼ばれる人々が増えています。この現象はバブル崩壊からわが国の企業が立ち直ってくる過程で会社の様々な企業努力から生まれたものです。会社は競争に勝つために、どんどん複雑化・専門化する中核業務とそれ以外の単純業務をそれぞれの仕事に適した労働者を雇うことで解決し、生産性をあげてきたのです。現在では、それらの用語だけが一般化し、言葉の定義がはっきりしていない場合も多いようです。
○パートタイマーとは?
一般的には有期雇用です。するべき仕事があるときに更新することを前提とする雇用形態で労働時間や勤務日数が正社員より短いことが原則で以下の表のような区分ができます。
区分雇用内容更新
有期労働契約短時間
一般パート補助的、定型的業務に従事するいわゆるパート業務がある限り原則更新有り
限定
就労パート年収130万円(社保非適用限度)、103万円(非課税限度)内の短時間勤務者限度オーバーしないよう調整勤務・更新あり
臨時的パート一時的、臨時的業務に雇用されるパート原則として1年を超えた
更新無し
常用的パート恒常的、基幹的業務に従事する短時間勤務者(主任等の場合もある)業務、職務がある限り更新
所定時間
パートパートタイマーと称しても通常時間勤務者更新が原則だが、上記同様雇用調整の先行対象者
無期正社員パートパートタイマーであっても正社員雇用の者期間の定めのない雇用
○アルバイトとは?
通常の労働者と比べて短時間の勤務か、一定の期間を限った勤務の期間労働者です。パートタイマーに比べて不規則、不定期で他の労働者の補てんや時間外や深夜などの特定勤務をおこなう簡易雇用です。主に学生や就職待機者が中心で長期であっても卒業、就職等の終期があるものを言います。
○契約社員とは?
①雇用期間が契約である場合と②業務の専門性(販売、設計、プログラム等)が契約である場合があります。一般的には雇用期間を定めた比較的高度の専門職で、所定の雇用目的を達成しないと客観的に認められたときは期間の途中でも条件変更や雇用契約が終了する特約もありえます。契約社員には例として以下のような種類があります。
1.代理商的、請負的な独立性のある者
2.専門職で個人の成績がはっきりし業績に応じた賃金の者
3.特殊な技術、技能者で請負的性格のある者
4.高度の専門業務やプロ的性格のある者
5.一定の短期的業務に従事する者
○嘱託とは?
幅広い概念で色々な雇用形態を含みますが、一般的には中途採用者で、業務を特定し正社員への登用等を予定しない雇用契約です。雇用期間を定めてもその業務の処理が中心で本人の意思や勤務態度に問題が無い限り雇用期間の更新があるものや、逆に一定期間に限るものもあります。例としては以下のようなものです。
①定年後の再雇用者やそれに準ずる中高年齢者で限定終期がある者
②中途採用者で正社員の賃金体系を適用することが不適当な者
③専門職(スペシャリスト)で会社の厳格な就業規律になじまない者
④顧問、コンサルタント等常用雇用でなく業務委任契約を結んでいる者